公開日: 2021年02月09日

遺産に不動産がある場合の遺留分計算をわかりやすく解説

遺留分 不動産
  • 不動産がある時の遺留分の計算はどうなるの?
  • 遺留分を請求したら、返してもらう不動産の扱いはどうなるの?
  • 不動産の価格はどうやって決まるの?時価は影響する?
  • 遺留分請求時の不動産の評価基準時は?

このコラムでは、相続財産に不動産が含まれていた場合の遺留分の計算について分かりやすく解説いたします。

1.遺留分の計算方法

1-1. 相続財産全体の評価額を求める

遺留分は、兄弟姉妹を除く法定相続人に一定の割合の相続財産の承継を保障する制度です。

具体的には相続財産全体に法定相続分を乗じ、さらに遺留分割合を乗じたものが遺留分となります。

例えば、夫が亡くなり、妻と長男・次男が相続人の場合、妻の法定相続分が1/2、長男・次男の法定相続分が各1/4となりますので、妻の遺留分は1/2×1/2=1/4、長男・次男の遺留分はそれぞれ1/4×1/2=1/8となります。

このように各相続人の具体的な遺留分を計算するにあたっては、相続財産全体の評価額が分かる必要があります

相続財産の評価ですが、基本的には相続時に有していた財産の価額から相続時の債務(借金や取引先に対する債務、未払金など)を引いて計算します。

相続財産の内、現預金は原則としては額面どおり計算すればよいのですが、不動産や非上場株式などの評価が必要な財産については、当事者間で評価方法を合意するか、適切な方法を用いて評価を行うことになります。

土地であれば公示価格・路線価、建物であれば固定資産税評価額、非上場株式の場合は、国税庁が作成する「財産評価基本通達」等に従って評価をします。

1-2. 一定の時期の贈与は遺産に加えて計算する

一部の相続人に生前贈与が行われた場合、遺留分の計算にあたっては、被相続人が相続開始のときに有していた財産に、生前贈与した財産の額を加算して全体の金額を計算します。

例えば、長男に全て生前贈与がなされた後、夫が死亡した場合、妻や二男の遺留分を計算するにあたっては、生前贈与された財産が相続時にあるものとみなして遺留分を計算することになるのです。(これを法律用語で「持戻し」と言っています)。

持戻しの対象となる財産は、相続人に対する生前贈与の場合は、原則として相続開始から10年間遡って、相続財産に持ち戻したうえで全体の金額を計算します。

相続人以外に対する生前贈与は、原則として相続開始前1年以内に行われたものに限り、持ち戻しの対象になります。

ただし、持戻しの対象となる生前贈与は法律で限定されています。

民法1044条3項で、相続人に対する生前贈与の場合は、結婚や養子縁組の際に受けた贈与や生計の資本として受けた贈与(住居や事業資金の贈与など)に限定されています。

2.遺留分計算における不動産の評価方法は?

遺留分侵害請求をするにあたって、相続財産に不動産が含まれていた場合、不動産の評価基準時は「相続開始時(=被相続人の死亡時)」とするのが一般的です。

持ち戻しの対象となる生前贈与の金額を算定するにあたっても、不動産の評価は相続開始時が基準時となりますが、遺産分割協議の場合は、遺産分割時(遺産分割の直近の時点)が基準時となりますので注意が必要です。

不動産の評価にあたっては、公示価格、相続税評価額(路線価方式・倍率方式)、固定資産税評価額、実勢価格など評価方法が多数ありますので、どの評価方法を用いるか相続人全員で合意して決めることになります。

不動産の評価方法に関する詳細はこちらのコラムをご覧ください。

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3.不動産の生前贈与による遺留分の侵害がある場合の精算方法は?

3-1. 【現行法】遺留分侵害額請求|金銭による精算

遺留分を侵害された相続人とその承継人は、遺贈(=遺言により贈与が行われること)や生前贈与を受けた相続人に対し、遺留分と実際の相続分の差額(=侵害額)について、金銭の支払いを請求できます。(民法1046条1項)。

このように遺留分侵害額請求は、遺言や生前贈与を受けた相続人に金銭の支払いを請求する権利ですので、一部の相続人が生前贈与として不動産を譲り受けた場合、遺留分を請求する権利がある相続人は、不動産そのものの現物分割を求めることはできません

不動産現物は譲り受けた相続人のところに残ることになります。

3-2. 【旧法】遺留分減殺請求|不動産現物で精算

これに対して旧法では遺留分が侵害された場合の請求権は、遺留分減殺請求と呼ばれていました。

遺留分減殺請求は、遺留分を侵害する遺贈または贈与の効力を失わせ、遺産そのものを取り戻す権利(=減殺する)ですので、一部の相続人が生前贈与として不動産を譲り受けた場合、遺留分を請求する権利がある相続人は、遺留分減殺を受けるべき価額に応じて、不動産そのものの分割を求めていくことになります。

つまり、不動産の価額が遺留分侵害額よりも大きい場合は、不動産の共有持分を請求することになるのです。

しかし、不動産の共有状態はトラブルの種になりやすく、不動産活用の利便性が阻害されるデメリットもあるため、実際には当事者同士で金銭での精算に合意することも多く行われていました

3-3. 現行法・旧法のどちらが適用されるか?

遺留分が侵害された場合、2019年6月30日以前に開始した相続については、旧法の遺留分減殺請求を行うことになり、2019年7月1日以降に開始した相続については、遺留分侵害額請求を行うことになります。

4.遺留分の計算についてのよくある質問(FAQ)

次に、遺留分の計算について、ご質問いただくいくつかの点についてお答えいたします。

生命保険金も遺留分の計算時に遺産に加えることはできる?

被相続人の死亡による生命保険金は、受取人固有の権利として受け取るため、原則としては、遺産に含まれることがなく、遺留分侵害額請求の対象とはなりません。したがって、生命保険金を遺留分計算の基礎となる財産総額に加える必要はありません。

葬儀費用を相続債務として遺留分の計算時に遺産総額から差し引くことはできる?

葬儀費用は、相続人全員の同意を得れば、相続債務として遺留分計算時に遺産総額から差し引くことができます。但し、相続人全員の同意が得られない場合、一般的には、喪主の債務と考えられるため、遺留分の計算では、葬儀費用は相続債務に含まれません

ちなみに、相続税の計算時には、葬儀費用が債務に含まれるため、遺産総額から差し引くことができます。

5.不動産に関する相続・遺留分計算は弁護士に相談を

相続財産や生前贈与された財産の中に不動産が含まれていた場合、不動産の評価方法が問題となります。

しかし、不動産の評価方法は多数あり、どの評価方法を用いるかにより不動産の評価額にばらつきが生じます

また不動産の評価方法をめぐり相続人間で対立が発生する場合もあります

このようなときに弁護士は相続全体をサポートしますので、遺留分問題の解決を含めて、円満な遺産分割の実現に向けた大きな前進に繋がります。

また相続税が発生する場合には、税理士と連携して、相続税申告にも対応することが可能です。

6.まとめ

このように不動産の評価方法をめぐり相続人間で対立がある場合、弁護士に相談して解決を図ることが適切であると考えます。

当事務所は、相続財産の中に不動産が含まれる事例、また生前贈与された財産の中に不動産が含まれている事例について多数取り扱っておりますので、是非ご相談いただければと思います。

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