公開日:2021年05月27日

遺留分侵害額の請求調停とは|調停の流れ、ポイント、申立方法を解説

遺留分 調停

このコラムでは、遺留分の調停手続の内容や流れ、申立方法、調停での解決のメリット等についてご説明いたします。

1.遺留分侵害額請求の調停とは

遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の遺産の取得分のことをいいます。
本来は自分の財産は自分で処分できるのが原則で、遺言、生前贈与や死因贈与により、誰にどのように遺産を承継させるかは被相続人の自由ですが、一定の法定相続人に一定割合の相続財産の承継を保障したのが遺留分の制度です。

従って、遺留分を侵害する贈与や遺贈があった場合、遺留分を侵害された一定の相続人は「遺留分侵害額請求」ができます

遺留分侵害額請求は、当事者同士の交渉により解決を図ることも可能ですが、当事者間での協議がまとまらないとき、あるいは話合いが困難なときに、家庭裁判所での調停手続を通じて解決を図ることができます。

調停手続では、調停委員が当事者双方から事情を聴き、また必要に応じて資料等の提出を求め、調停委員を通じて当事者間が話合いをすることを通じて解決を図ります。

この遺留分に関する調停手続は「遺留分侵害額の請求調停」と呼ばれています(2019年6月30日以前に発生した相続では「遺留分減殺による物件返還請求等の調停」をする必要がありますが、基本的に流れ等は、遺留分侵害額の請求調停と変わりません)。

なお、遺留分については、原則として訴訟の前に調停を行うこととされており、これを「調停前置」と呼んでいます。

遺留分侵害額の請求調停での解決は、当事者間同士による協議や訴訟手続に比べると、次のようなメリットがあります。

2.遺留分侵害額請求で調停を行うメリット

2-1. 調停委員と話すためお互い感情的になりにくい

調停中は、原則として対立当事者と同席しないように配慮してもらえます。

また、調停委員が双方の意見を聞き取ることを通じて、裁判所が第三者的に事情を把握してくれるため、冷静に交渉を進めやすいというメリットがあります。

2-2. 解決案や落とし所を提案してもらえる

調停委員は双方の意見を聞いて妥当と思われる解決案を提示してくれる場合があります。

また調停は、調停委員を通じた当事者間の交渉により解決を図る手続であるため、当事者が納得できない条件で合意する必要はありません(もっとも調停委員が当事者間の事情に沿った妥当な解決を図るべく、当事者に対してある程度解決に向けた説得をする場合はあります)。

当事者の合意さえあれば、訴訟よりも、当事者双方の意見を反映した柔軟な解決ができる場合もあります。

2-3. 手続きが比較的簡単で、その気になれば自分で申し立てることも可能

調停の申立ては、弁護士ではない当事者でも申立ができるように、家庭裁判所のHPでひな形が掲載されています。
また調停を申立てした後も、調停期日では口頭のやり取りが行われることも多く、必ずしも高度な法的知識がなくても調停委員のアドバイスを通じて解決する場合もあり、利用者のハードルが比較的低いと考えます。

このように調停手続では、調停委員が当事者から事情を聴きながら進められますが、調停での時間は限られており、ご自身の主張を全て時間内で調停委員に理解してもらうのはかなり困難です。

従って、事実関係を整理した書面の提出を適宜する方が好ましく、むしろ複雑な事案の場合には期日前に予め書面を提出した方が効果的なことも多々あります。

このような場合、遺留分に関する法律的な知識や事案の整理能力があった方が望ましく、また期日で調停委員から決断を迫られる場合もあるため、代理人弁護士に依頼した方が安心であるとも言えます。

3.遺留分侵害額の請求調停の流れ

3-1. 遺留分侵害額の請求調停の流れ

遺留分に関する調停を当事者が家庭裁判所に申し立て、裁判所で受理されると、申立人と裁判所で初回(第1回期日と言います)の日時が調整され、相手方に申立書のコピーと日程に関する通知(呼出状)が送られます。

調停では、裁判官1名と調停委員2名で調停委員会が構成され、調停委員会を通じて当事者間の話し合いが進められます。

初回期日では調停委員から当事者に調停手続の諸説明が行われ、以後、調停室に当事者が交互に入り、調停委員から事情を尋ねられることになります(なお初回期日は、相手方の都合を聞かずに日時が指定されているため、相手方が出頭しない場合も多々あります)。

調停は通常、1回の期日で2時間程度(現在はコロナ禍の影響で短縮されています)行われ、1~2ヶ月に1回程度の頻度で開かれます。
調停の回数はケースバイケースですが、1~2回で終了するケースは少なく、長いと1年以上かかることもあります。

従って、解決までの期間としては、半年程度はかかると見ておいた方がいいと思います。

3-2. 遺留分侵害額の請求調停の終了

当事者が合意し、調停が成立すれば調停調書が作成され、調停調書での取り決めにより、遺留分を誰がどのくらい支払うのか等が決まります。

調停調書の取り決めに従って遺留分の支払い等が履行されれば、法律的には遺留分の問題は解決になるわけですが、調停調書での取り決めが任意に履行されない場合は、調停調書の取り決めの履行を図るべく、地方裁判所に強制執行の申立てをすることが可能です。

このように当事者間で調停を通じて合意が成立すればよいのですが、調停を続けても当事者が合意できそうにない場合や、当事者の無断欠席が続く場合等は調停不成立となります。

このような場合は、遺留分侵害額を請求する側としては、地方裁判所又は簡易裁判所に訴訟提起をして解決を図るしかないのが通常です。

なお、遺留分侵害額の請求調停において、請求に不備があり調停を維持することが困難な場合、調停での解決が困難あるいは調停での解決が適さない場合などには、裁判所から取り下げを促されることもあります。

4.遺留分侵害額の請求調停を進める上でのポイント

4-1. 自分の主張は根拠とともに説明する

調停委員と話すときは、自分の主張が法的に妥当であることを理解してもらう必要があります。

調停委員に単に自分自身の主張だけを伝えるのではなく、その根拠とともに説明した方が調停委員から理解してもらえます。
従って、可能な限り、自分の主張を裏付ける資料を用意し、必要に応じて書面にまとめるなど、調停委員に限られた調停期日の時間内に理解してもらうように工夫することが肝要です。

例えば、遺留分を侵害する不動産の贈与、遺贈があった場合などでは、その不動産の価額評価について裏付けをする必要がありますし、遺留分の算出方法が複雑な場合はそれを書面化した方が望ましいと考えます。

4-2. 適切な妥協点を考える

遺留分侵害額の請求調停は、あくまで裁判所の場における当事者間の話合いの手続きである以上、当事者双方が納得しないと調停は成立しません。

あくまで協議ですので、遺留分を計算上はこれだけ取得できるという考え方に拘泥するべきではなく、調停にかかる期間や労力、成立後の相手方の履行可能性なども考慮しながら、戦略的に妥協点を決める必要があります。

4-3. 調停委員は法律の専門家だけではない

調停委員は必ずしも法律の専門家だけではなく、公認会計士や不動産鑑定士など他の有資格者や、分野ごとの専門知識を有する人も多いです。

調停委員の職責上、当事者双方に対して中立的に判断するのが通常ですが、中立的な立場ゆえに当事者の一方と意見が食い違い、当事者によっては、調停委員から一方的に説得あるいは非難されているように感じ、調停委員の整理に違和感を覚えることもあり得ます

以上の様々な点で、もし困ったことや不安なことがあれば、一度弁護士に相談してみるのがおすすめです。

弁護士に相談すれば、調停における当事者の事情を第三者的に把握し、当事者の主張を整理し解決の方向性を示すことも可能ですし、依頼すれば調停に出席し当事者の主張を法律的に整理して調停委員に伝えることも可能です。

5.遺留分侵害額の請求調停の申し立て方法

ここからは自分で調停を申し立ててみようと思っている人向けに、具体的に調停手続を解説いたします。

5-1. 調停の申立方法

まず管轄の家庭裁判所に申立書等の必要書類を提出して申し立てをします。

原則として、申し立ての相手方の住所地が管轄の家庭裁判所になりますが、当事者間の合意があれば他の家庭裁判所で申立することも可能です。

5-2. 調停申し立ての必要書類と費用

必要書類は以下のとおりです(事案により必要な書類が異なりますので、詳細は裁判所あるいは依頼した弁護士にご確認ください)。

必要書類入手先等
申立書及び遺産目録とそのコピー
(コピーは相手方の人数分必要)
裁判所のHP(後述)
被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、相続人全員の戸籍謄本市区町村の役所・役場
(遺言書があれば)遺言書または遺言書の検認調書謄本のコピー自筆証書遺言の保管制度を用いている場合は法務局、公正証書遺言の場合は公証人役場で検索をかけることも可能。
遺産に関する証明書(以下は一例です)
①不動産の登記簿謄本〔登記事項証明書〕
②固定資産評価証明
③預貯金通帳のコピーまたは残高証明書
④有価証券等のコピー、借金等の負債がある場合はその借用書や請求書等の資料など
①法務局
②市町村の役所・役場(23区の場合は都税事務所)
③④金融機関など

※上記のほか、相続人となる者と被相続人の関係性により、戸籍関連の書類が追加で必要になるため、申し立て先の家庭裁判所に確認するのがよいと思います。

費用は、収入印紙1,200円分、裁判所との連絡用の郵便切手(金額は裁判所によって異なるため要確認)が必要です。

なお、弁護士に依頼する場合は弁護士費用もかかります。
あたらし法律事務所の費用はこちらをご参照ください。

5-3. 申立書の書式と作成方法

遺留分侵害額の請求調停申し立てで、多くの人が迷うのが「申立書」の作成です。
しかしポイントを押さえれば難しくはなく、必ずしも固い文章にしなくても問題ありません。
書式は裁判所で公開されているのでご参照ください。

参考:裁判所「遺留分侵害額の請求調停の申立書

①申立ての趣旨

「申立ての趣旨」とは、調停で求める結論部分のことをいいます。

「申立ての趣旨」では、求める金額を記載するのが理想的ではありますが、侵害額自体がいくらかも調停で話し合うことも多いため、「遺留分侵害額に相当する金額の支払いを求める」という程度の記載で問題ありません。

②申立ての理由

遺留分侵害額請求について自身の主張と根拠を分かりやすくまとめます。

コピーが相手方に送られるため、必要最小限の事項のみ記載し、相手方の感情を逆なでする内容のことは書かない方が望ましいと考えます。要は、事実を淡々と記載することです。

記載すべき内容は以下のとおりです。

  • 被相続人が誰でいつ亡くなったか
  • 申立人・他の相続人と被相続人との関係
  • 遺言書の内容や作成時期
  • 相続財産の内容、遺留分を侵害している贈与または遺贈の内容(贈与や遺贈の日付、相手方なども記載)
  • これまでに遺留分の請求をした場合はその内容や調停に至るまでの経緯

5-4. 申立書のサンプル(記載例)

申立ての理由と趣旨それぞれ について、裁判所の記入例を掲載いたします。

参考:裁判所記入例(PDF)

6.まとめ

調停は比較的自分だけでも行いやすい手続ですが、調停での限られた時間内に当事者自らが自己の主張を正確に調停委員に伝え、また適切な証拠を提示することは難しく、当事者によっては、調停委員から一方的に説得あるいは非難されているように感じ、調停委員の整理に違和感を覚えることもあります。

調停を申し立てたい方、申し立てられた方、調停中だが調停の進み方に違和感があって相談したい方など、是非あたらし法律事務所までご相談いただければ幸いです。

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