公開日: 2022年01月24日

特別受益と遺留分|遺留分侵害額請求の対象になる?

相続が発生した場合には、法定相続人が法定相続分に基づいて遺産分割を行うのが一般的です。
しかし、生前の被相続人から多くの財産をもらっている相続人がいた場合には、法定相続分どおりに遺産を分けると相続人の間で不公平が生じることになります。

このような場合には、特別受益を相続財産に持ち戻して計算することによって相続人間の公平を図ることができます。
しかし、特別受益は「遺留分」の計算においても考慮する必要がありますので、特別受益がある場合の遺産相続は、一度弁護士にご相談することをお勧めします。

今回は、特別受益と遺留分との関係について解説します。

1.特別受益とは?

(1) 特別受益の概要

特別受益とは、生前の被相続人から特別の利益を受けることをいいます。

特別受益にあたるものとして、民法では以下のものを挙げています。

  • 相続開始後に受けた遺贈
  • 生前贈与のうち、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与

民法の規定からも明らかであるように、「遺贈」はすべて特別受益として扱われます。しかし、生前贈与については「婚姻」「養子縁組」「生計の資本」に限り特別受益として扱われることになります。

生前贈与についてのみ制限が設けられているのは、すべての生前贈与を対象とすると計算が煩雑になること、被相続人の通常の意思からしても少額の生前贈与は特別受益の対象とすべきでないことが理由とされています。

なお、特別受益の対象者となるのは、「相続人」のみです。被相続人から相続人以外の人に対しての生前贈与または遺贈は、特別受益にはあたらないのが原則です。

(2) 特別受益の「持ち戻し」とは?

遺産相続は、法定相続人が法定相続分に従って被相続人の相続財産を分けるのが一般的です。しかし、特別受益のある相続人がいる場合には、法定相続分どおりに相続財産を分けてしまうと不公平な結果となることがあります。

このような場合には、特別受益を遺産に「持ち戻し」て計算することによって、相続人同士の不公平を是正することができます。

たとえば、相続人が妻、長男、長女の3人であり、相続財産が4,000万円であった場合において、法定相続分どおりに遺産分割をした場合には、それぞれの相続分は以下のとおりです。

<法定相続分どおりに遺産分割をした場合>
妻:4000万円×1/2=2000万円
長男:4000万円×1/4=1000万円
長女:4000万円×1/4=1000万円

これに対して、長男が生前に自宅の購入資金として1,000万円の生前贈与を受けていた場合、それを特別受益として考慮し相続分を計算すると以下のようになります。

<長男へ1,000万円の生前贈与があった場合(特別受益を考慮)>
妻:(4000万円+1000万円)×1/2=2500万円
長男:(4000万円+1000万円)×1/41000万円=250万円
長女:(4000万円+1000万円)×1/4=1250万円

2.特別受益と遺留分侵害額請求

では、特別受益となる贈与・遺贈があった場合、遺留分侵害額請求にあたってどのような影響があるのでしょうか。

(1) 遺留分とは

遺留分とは、一定の範囲の相続人に対して、法律上保障されている最低限の相続財産の取得割合のことをいいます。

遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められており、その割合については、民法で、以下のように規定されています。

  • 父母などの直系尊属のみが相続人である場合:法定相続分×3分の1
  • それ以外の場合:法定相続分×2分の1 

被相続人が「特定の相続人に対してすべての遺産を相続させる」内容の遺言書を残していたとしても、相続人の遺留分を侵害することはできませんので、遺留分を侵害された相続人は、侵害された遺留分相当額の金銭を請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

遺留分侵害額請求についての詳細は、以下のコラムをご参照ください。

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(2) 特別受益も遺留分侵害額請求の対象

遺留分の算定の基礎となる財産は、以下の計算で導きます。

(「被相続人が相続開始時に有していた財産」+「贈与した財産」)―「債務」=遺留分の算定の基礎となる財産

そして、上記に該当する「贈与」は、以下のものとされています。

  • 相続開始前1年以内になされた贈与
  • 贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与
  • 相続人への特別受益にあたる贈与

このように、相続人への特別受益にあたる贈与についても遺留分算定の基礎となる財産に含まれることになります。

以前は、特別受益にあたる贈与については、期間の制限なく遺留分算定の基礎となる財産に含まれていましたが、相続法改正によって、令和元年71日以降の相続に関しては、相続開始から10年以内になされた特別受益にあたる贈与に限定されることになります。

3.持ち戻し免除の意思表示があった場合

(1) 持ち戻し免除の意思表示とは?

相続人の間の公平を図るために行う「特別受益の持ち戻し」ですが、被相続人が生前にその持ち戻しを免除する意思表示をしていることもあります(=持ち戻し免除の意思表示)。

このような場合は、特別受益の持ち戻しを考慮せず遺産分割を行います。

被相続人の相続財産は、当然ですが元々被相続人が所有していたものです。これは生前の被相続人が自由に処分できるものと考えられます。
よって、特別受益とその持ち戻しに関しては、被相続人の意思を尊重するべきであると考えられるため、このような持ち戻しの免除が認められているのです。

持ち戻しの免除の意思表示の方法については、法律上特に決まりはありません。明示の方法だけでなく黙示の方法による持ち戻しの免除も認められています。
実務上は、明示的な黙示の意思表示がなされることは少なく、被相続人に黙示の意思表示があったかどうかで争いになるケースが多いです。

(2) 持ち戻しの免除があっても遺留分侵害額請求は可能

先述の通り、一定の範囲の相続人には、最低限の遺産取得割合としての遺留分が保障されています。
そして、その遺留分算定の基礎となる財産の計算には、特別受益も関係してきます。

では、当該特別受益に対して持ち戻し免除の意思表示があった場合は、どのようになるのでしょうか。

最高裁判所は、持ち戻し免除の意思表示があったとしても、贈与財産の価額は遺留分算定の基礎となる財産に算入されると判断しています(最高裁平成24126日判決)。

すなわち、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていても、特別受益は遺留分侵害額請求の対象となるのです。

4.特別受益と遺留分についてのよくある質問(FAQ)

生命保険金は特別受益になるの?遺留分侵害額請求はできるの?

被相続人が亡くなったことで、相続人が生命保険金を受けとることがあります。相続人を受取人に指定していた場合、この生命保険金は、受取人固有の財産であり、原則として特別受益の対象ではありません。したがって、遺留分侵害額請求をすることもできません。

ただし、例外的に相続人が受け取った生命保険金が特別受益と判断されることもあります。最高裁判所は、平成16年10月29日の判決で、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には」特別受益として持ち戻しの対象になると判示しています。

さらに、同判決では、生命保険金が特別受益となるか否かを決する特段の事情があるかどうかは、事案ごとに様々な事情を「総合考慮」して判断するとしています。

生命保険金が特別受益と判断されれば、遺留分侵害額請求が可能です。「この生命保険金は特別受益にあたるのでは」と思った方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

特別受益と遺留分に関するトラブルを弁護士に相談すべき理由は?

特別受益を得た相続人に対して遺留分の請求を検討している方に、弁護士に相談することをお勧めするのは、以下の理由があるからです。

遺留分侵害額請求には期限がある

遺留分侵害額請求は、「遺留分が侵害されていることを知ったときから1年」または「相続開始のときから10年」という期間制限があります。

特に、1年という期間はあっという間に過ぎてしまいますので、遺留分が侵害されていることに気付いた場合には、早めに弁護士に相談をすることが大切です。

弁護士に相談をすることによって、遺留分侵害額請求の期限内に必要な調査を終えて、内容証明郵便などによって確実に請求を行うことができます。

遺留分の計算は非常に複雑

遺留分算定の基礎となる財産の計算は、非常に複雑なものであり、正確な金額を算定するためには専門的な知識と経験が不可欠となります。

また、正確な金額を算定するためには、財産の調査や評価を適切に行わなければならず、不慣れな方では金額に漏れがあり本来得られるはずのものが得られないなどのリスクが生じます。

このような複雑な遺留分の計算および請求については、専門家である弁護士に任せるのが安心です。
遺留分という大切な権利を守るためにも、遺留分の請求を検討されている方は弁護士にご相談ください。

5.まとめ

相続人の誰かが特別受益を受けていた場合には、遺産分割の場面ではそれを相続財産に持ち戻したうえで相続財産を計算し、遺産分割が行われます。

また、特別受益も遺贈や贈与であることには変わりありませんので、遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、遺留分侵害額請求の対象です。

遺留分に関する問題は、相続人同士で争いになる可能性が高いものといえますので、遺留分の請求をご検討中の方は、あたらし法律事務所にぜひご相談ください。

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