相続財産に不動産が含まれている場合、
- 不動産の価値はどうやって決めればいいの?
- 価値の基準はどうずるの?
- 不動産の評価方法を知りたい
- 遺産分割で評価額が違う場合はどれを使えばいい?
など多くの疑問があると思います。
このコラムでは相続における不動産の評価について説明します。
目次
1.不動産の評価額が遺産分割に与える影響とは
1-1. 不動産自体の価値が高いため遺産総額に大きく影響する
不動産は遺産分割の対象になりますので、不動産の価格は相続財産全体の価格を把握するにあたって非常に重要になります。
山林・交通不便な場所・不動産取引がほとんどない場所での不動産は価値が低い場合もありますが、都市部の住宅地や商業地では不動産価格が高いため、不動産が遺産相続に大きく影響する場合があります。
また、相続事件の中には、現預金はそれほどなく自宅不動産のみあるケース、中には、不動産が多数あるケースなど、不動産が相続財産の価値の大半を占めるケースも多いです。
また、後で述べるとおり、公示価格、標準価格、路線価、固定資産税評価額、実勢価格等の方法によって、不動産の評価額が数百万・数千万円単位で変わることもあり、遺産総額に与えるインパクトが大きいです。
1-2. 法定相続分や遺留分の計算には遺産総額を確定する必要がある
法定相続分は、民法に定める相続分のことで、被相続人による遺言がない場合に適用されます。
配偶者と子がいる場合は、配偶者が2分の1、子が2分の1、配偶者と直系尊属(父、母)がいる場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1、配偶者と兄弟姉妹がいる場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1と決められています。
遺留分は、被相続人が有していた相続財産について、一定割合を配偶者、子(孫も含む)、直系尊属に保障する制度であり、直系尊属のみが相続人である場合は、法定相続分の3分の1、それ以外の場合は、法定相続分の2分の1と民法で決められています。
このような法定相続分と遺留分は、遺産全体に対して金銭評価を行ったうえで、その総額を用いて計算されます。
従いまして、法定相続分や遺留分を計算する際には、相続財産に含まれている不動産の評価額を確定しなければなりません。
2.不動産の評価方法は多数ある
前述したとおり、不動産の評価方法は、公示価格、路線価、固定資産税評価額、実勢価格等多数あります。そのため、遺産分割をするにあたり、どの評価方法を用いるかが問題となります。
2-1. 相続での代表的な不動産評価方法
①公示価格
公示価格は、国土交通省の土地鑑定委員会が特定の標準地について毎年1月1日を基準日として公示する価格であり、同年3月下旬ころに公表されています。
公共事業の用地買収や民間の土地取引もこの価格を指標に行われています。
なお、同じく国土交通省が公表する地価で基準地価というものもあります。
基準地価はその年の7月1日時点の全国の基準値の土地価格であり、調査主体が国土交通省ではなく、都道府県になり、公示価格と同様に客観的な評価方法として用いられることがあります。
②相続税評価額(路線価)
相続税評価額(いわゆる路線価)は、相続税、贈与税等の算出の基準となる価格のことで、毎年1月1日時点の価格が基準となり、毎年7月頃に国税庁から公表されます。
路線価は公示価格の80%を目安に設定されています。
③固定資産税評価額
固定資産税評価額は、固定資産税を決める際の基準となる価額のことで、公示価格の70%を目途に各市町村で決めています。
④実勢価格
実勢価格は、実際に取引が成立する価格です。実際の不動産売買価格は、不動産の需要と供給で決まりますので、公示価格よりも高い価格になる場合もありますし、逆の場合もあります。
2-2. 相続ではどの評価方法が適切か
上記のように、評価方法が様々あるため、遺産分割をする際の不動産評価をするにあたり、どの価格を基準に評価をするかが問題となります。
相続税評価額(路線価)や固定資産税評価額を基準に評価する方法は、当該土地の価格の評価としては客観性もあり、調査も簡易であるというメリットもありますが、特に都市部では時価評価よりも低いというデメリットがあります。
公示価格を基準に評価する方法は、客観性が高く最も時価に近い評価方法となりますが、公示価格は標準地の価格に過ぎず、問題となる土地が標準地から離れていたり、土地の形や接道条件が異なっていたりすると、当該土地の評価としてはあくまで参考程度にしかなりません。
その他、不動産業者による査定を参考に評価を決めたり、不動産鑑定士に評価してもらったりする方法もあります。
不動産鑑定士の評価は、不動産業者による査定書よりも客観性が高く、裁判所で不動産評価が争われる場合は、裁判所の選任した不動産鑑定士による評価を用いて遺産分割協議がなされますが、相続財産に不動産が多い場合は鑑定費用が高額になるというデメリットもあります。
また、不動産を相続しない相続人は、金銭などによる代償を多く得るため、不動産の価格を高く見積もれる時価評価を主張する場合もありますし、不動産自体を相続する相続人にとっては、相続税評価額や固定資産税評価額での評価を主張する場合もあります。
このように、どのような評価方法をとるかは一長一短があり、一概に決められないところに不動産評価の難しさがあります。
2-3. 相続税評価額(路線価)で計算する場合
相続税評価額は計算方法が決まっており、国税庁のウェブサイト「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」を見れば調べることができます。
①土地の場合
土地の評価方法は、路線価方式と倍率方式の2通りがあります
路線価方式
路線価が定められている地域の土地について用いられる評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価額のことであり、千円単位で表示されています。
路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で補正した後に、その土地の面積を乗じて計算します。
倍率方式
路線価が定められていない地域の土地について用いられる評価方法です。
倍率方式における土地の相続税評価額は、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。国税庁のウェブサイトに評価倍率表が掲載されていますので、当該土地の倍率を調べて相続税評価額を計算します。
②家屋の場合
一般的な評価方法は、現在築造したらいくらかかるのかという再調達価格を求め、そこから経年減価等を行う方法が正式ですが、専門家の評価が必要となります。
そこで、固定資産税評価額を用いることが多いのですが、固定資産評価額は時価そのものではありません。新築間もない場合は、固定資産税評価額の方が安い場合が多く、逆に耐用年数が経過した建物は、固定資産税評価額の方が時価よりも高額になる傾向があります。
③他人に賃貸している不動産(借地・借家)の場合
借地の場合は、更地から借地権の評価を控除して算出します。借地権の評価は、更地価格に借地権割合を乗じて評価しますが、借地権割合は、国税庁のウェブサイト「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に出ています。
借家の場合は、家屋の評価額から、借家権(家屋の評価額×0.3)を控除して算出します。
なお、貸家建付地(貸家やアパートの敷地になっている土地)については、以下のとおり計算します。
更地価格−更地価格×借地権割合×借家権割合(0.3) ※借家権割合は一部例外があります。
2-4. 時価で計算する場合
時価は、不動産業者の査定書や、不動産鑑定士の鑑定書などから計算します。また、相続税評価額に0.8で割って計算する方法もあります。
時価は、市場価格が参照されますが、市場価格自体が流動的である上、不動産業者の査定や不動産鑑定士の評価も評価する人により査定や評価が異なる場合があります。
そのため、相続人の一方が取り寄せた査定と評価と他方が取り寄せた査定や評価が異なることはよくある話で、時価評価をめぐって争いになることも多いです。
3.相続における不動産の評価を行う流れは?
3-1. 遺産分割協議で不動産評価に関する方針を決める
前述のとおり不動産評価方法はさまざまにありますが、遺産分割協議では不動産をどのように評価するか相続人間で合意ができればそれに越したことはありません。不動産評価をめぐり、調停・審判をするとなると時間や費用がかかるからです。
相続人の間で、当該土地については、相続税評価額が適切なのか、固定資産税評価額が適切なのか、あるいは時価を用いるのか、両方を計算して中間をとるのかなど、弁護士を交えながら相続人全員が納得できる方法を選択します。
3-2. 実際に不動産の評価を行う
相続税評価額を用いる場合は、国税庁のウェブサイト「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」を参照にして算出する方法もありますが、土地の形状が複雑な場合や広大地など相続税評価が難しい場合、相続税申告が必要な場合などは税理士のサポートを受ける選択肢もあります。
また、遺産分割協議を委任する弁護士にそのまま計算を依頼することも多いと思います。
特に時価評価を用いる場合は、不動産業者の査定や不動産鑑定士の鑑定が必要となります。弁護士事務所は査定する不動産業者や鑑定する不動産鑑定士を知っていることも多いので、弁護士に紹介してもらうのがスムーズかと思います。
4.他の相続人が提示する不動産の評価額に不満がある場合の対処法は?
4-1. 事案に応じて妥当な計算方法を用いるよう提案する
前述のとおり、不動産の評価で他の相続人との間で対立が発生する場合があります。その場合は、事案に応じて、残りの相続人から賛同を得やすい不動産評価方法を用いるのも一つの手ではないかと思います。
田畑が多く不動産取引が難しい場所の不動産が多数ある場合であれば、費用をかけるよりも固定資産税評価額を用いる方が簡便です。また時価評価にしたいが住宅地が多数あり、費用をかけたくないならば、相続税評価額を0.8で割るのも一つの方法です。
相続人間での査定に齟齬がある場合は、その査定の平均値をとる方法もあろうかと思います。
このようにして、事案に応じて適切妥当な計算方法を用いる方法がベターかと思います。
4-2. 弁護士に頼んで説得を試みる
遺産分割において不動産の評価が争われる場合であっても、それ以外の相続財産を全体的に見て解決を図る方法もあろうかと思います。
不動産の評価だけに目を向けるのではなく、遺産分割全体を総合的に見て、すべての相続人が納得できる遺産分割案ができれば、それも一つの解決方法です。
不動産の評価は、あくまで遺産分割協議の中の一部に過ぎません。
弁護士に依頼をして、他の相続人にも納得しやすい遺産分割案を提示して、相続人に対する説得を試みることも有効です。
5.相続不動産の評価についてよくある質問(FAQ)
相続した不動産の評価方法にはどんなものがある?
ここまでご説明した通り、不動産の評価方法には以下の4つがあります。
- 公示価格
- 相続税評価額(路線価)
- 固定資産税評価額
- 実勢価格
相続人全員が納得できる方法を選びましょう。難しい場合には、遺産分割協議について弁護士に依頼することもご検討ください。
遺産分割協議で不動産評価が決まらない場合はどうすればいい?
遺産分割協議では相続人間で不動産の評価額が決まらないこともあります。
その場合には、遺産分割調停を申し立て、調停がまとまらなければ遺産分割審判へと、舞台は家庭裁判所に移ります(遺産分割審判を直接申し立てることは可能ですが、裁判所の判断により調停に回されることが多いでしょう)。
遺産分割調停においても、最初は各相続人の主張を調停委員が聞き取り、合意を目指しますが、合意に至らなければ、不動産鑑定士による鑑定が行われます。
裁判所が不動産の評価額について判断する際に特別の事情がなければ、不動産鑑定評価額を採用する調停案となります。停案に相続人全員が同意すると、遺産分割調停が成立します。
一方で、合意に至らなければ、調停は審判へと進み、裁判官の審判により不動産の評価額が判断されることになります。
6.まとめ
このように相続財産の中に不動産がある場合には、不動産の評価方法が問題となり、遺産分割に大きな影響を及ぼすことがあります。
不動産の評価方法をめぐり相続人間で対立が発生した場合は、弁護士に相談して解決を図ることが適切であると考えます。
当事務所は、相続財産の中に不動産がある場合の事例について多数取り扱っておりますので、是非、ご相談いただければ幸いです。