公開日: 2021年04月16日

相続登記の義務化|改正の内容と不動産・土地相続への影響を解説

民法改正

 

  • 相続登記が義務化されるとどうなる?
  • 義務化されたら相続登記しないと罰則があるの?
  • 相続登記してない土地も登記しないとだめ?

このコラムでは、相続登記義務化の背景事情や法案の内容についてご説明いたします。

本法案は、2021年4月21日に可決・成立しました。

1.相続登記義務化の法改正が成立

先般、民法・不動産登記法部会第26回会議(2021年2月2日開催)において,「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定されました。

要綱案では所有者不明土地の対策として、相続登記の義務化などが定められ、2021年4月1日に衆議院を通過し、4月21日に参議院で可決・成立しました。

1-1. 所有者不明土地の問題を解決することが目的

所有者不明土地とは、登記簿謄本等で所有者が直ちに判明しない、あるいは判明しても連絡がつかない状態の土地のことです。

例えば、登記名義人は既に死亡し、数代にわたり相続登記されておらず、現在の相続人を探索することが困難な状態がこれにあたります。

日本には所有者不明土地が数多く存在し、国土交通省の平成28年の地籍調査によれば登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合は20%程度、探索の結果、最終的に所在が不明な土地は0.41%あるということです。

所有者不明土地は、直ちに売却することができず、また土地上に建物を建築することにも支障が生じます。

不法投棄の原因にもなっているため、土地の有効活用の妨げになり、経済的な損失が生じていると考えられています。

所有者不明土地が生じる大きな原因としては、土地の登記名義人の住所が正しく登記されていないケースもありますが、相続の際に親の家や土地の名義変更をしないなど、適切な相続登記が行われないことが原因のケースが多いようです。

現行法上、相続登記は義務ではないため、相続登記をしないまま長期間放置されている事例が多々あるのですが(筆者は江戸時代の方が登記簿上の所有者だった事例を見たことがあります)、相続登記が義務化されることによって所有者不明土地問題の解消が期待されています。

1-2. 改正法が2021年4月21日に成立|義務化は2024年までに

当初は2020年中の法改正が目指されていましたが、コロナの影響などにより、国会での議論は遅れていました。

ようやく、民法・不動産登記法部会第26回会議(2021年2月2日開催)において,「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」が決定され、2021年4月1日に衆議院で可決されました。

そして、2021年4月21日に参議院で可決・成立しました。今後、2024年までを目処に施行される予定です。

 

2.法改正で相続登記が義務化されるとどうなる?

2-1. 土地の有効利用が可能になる

法改正により相続登記が義務化されれば、相続した土地の所有者が明らかになりますので、相続した土地の所有者が土地の売却や賃貸をし、土地上に建物を建築するなど土地を有効利用することが可能になります。

また公共事業における収用手続が合理化・円滑化することも可能になり、国や自治体が公共事業として土地を有効利用することが可能になると考えられます。

2-2. 土地に関するトラブルが減る

所有者不明土地が長期間放置され土地が荒れ放題になると、廃棄物が放置されるなど周辺環境に対して悪影響が生じるときもあります。

また、台風被害等により対策工事をしなければならない土地に対しても事業を着手できない事態が発生するときもあります。

相続登記が義務化すれば、相続した土地の所有者が登記上明らかになりますので、不法投棄や災害にも迅速に対応することが可能になります。

3.法改正で相続登記はどう変わる?

3-1. 相続登記申請の義務化

現在は相続登記が義務化されておらず相続登記を行う期間制限もありませんが、改正法では一定の期間内に相続登記を行うことが義務化され、期間も設定されました。

改正法では、不動産の登記名義人が亡くなった場合の相続人は、亡くなったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならないと定めています。

なお、所有者不明土地の対策として、相続登記の義務化だけではなく、不動産の登記名義人の氏名や住所の更新を図るための仕組みが規定されています。

具体的には不動産の登記名義人の氏名や名称又は住所の変更があったとき、不動産の登記名義人はその変更があった日から2年以内に変更登記の申請をしなければならないことになっています。

3-2. 違反に対しては過料も

国会提出前の最後の要綱案では相続登記申請をしなかった場合に行政上の制裁である過料に処すルールが設けられています。

具体的には相続登記を申請する義務がある者が正当な理由がないのに申請を怠った場合は10万円以下の過料に処するとされています。

なお、不動産の登記名義人の氏名等や住所の変更登記申請を正当な理由がないのに申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処するとされています。

※過料は社会の秩序を守るための罪で行政上のペナルティーです。刑事上の罰金とは異なり前科がつかず、違反することにより労役場留置になることもありません。

3-3. 相続人申告登記(仮称)の創設

上記のように相続登記を申請しないことに対して過料がある一方で、通常の登記よりも簡易的な方法による新たな登記制度が創設され、申請義務の履行が容易になりそうです。

具体的には、相続登記の申請義務を負う者は、登記官に対し、不動産の登記名義人について相続が開始したこと、自らが当該不動産の相続人である旨を、登記官に対し申し出すれば、相続登記の申請義務を履行したものとみなす規定も創設されています。

4. 所有者不明土地問題を解決するために検討中のその他の法改正

4-1. 土地所有権の放棄

相続人の誰もが相続した土地の所有権を取得したがらない場合があります。

例えば郊外の土地で維持・管理に費用はかかるが、有効活用ができず売却するにも売却できない場合です。

このような土地がある限りは所有権不明の土地問題は解決しません。

ところが、現行法では土地の所有権を放棄することに関する法律の規定がなく、確立した判例も存在しません。

そこで土地所有権の放棄に関するルールを定めることで、国や自治体による土地の活用可能性が模索されています。

改正法では、土地の所有者が国に土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認申請を行い、承認申請が承認された場合には、国庫に帰属することを認める制度が創設されています。

但し、土地の所有者は、承認された土地について10年分の負担金(管理費など)を納付しなければならないことになっています。

4-2. 遺産分割の期間制限

前述のとおり、現行法上は遺産分割に期間制限が設けられていませんが、遺産分割をせずに土地が放置された結果、その後の数次相続によって権利関係が複雑化する問題が生じています。

例えば、明治時代生まれの登記上の名義人が亡くなりそのまま相続登記を経ることなく放置された場合、現在の土地の所有者が誰なのか直ちには明らかにはなりません。

戸籍謄本をたどって何とか現在の相続人にたどりつけたとしても、相続人が何十人といることがあり、その相続人全員の同意を得て遺産分割協議をすることは現実的ではない場合があります。

そのため、遺産分割に期間制限を設けることが検討されています。

改正法では、相続の開始の時から10年を経過した後は、各相続人は法定相続分で相続することになると規定しています。

例えば、土地の所有者のAさんが亡くなって、相続人に長男Bさんと次男Cさんがいたとします。

長男BさんはAさんの財産の増加に貢献し長期間介護をしており、寄与分を主張したいと思っていましたが、10年経過して遺産分割協議をしても、Bさんは寄与分の主張ができず、法定相続分の割合でしか相続できないことになります。

また遺産分割調停の申立てや遺産分割審判の申立ての取下げについて、相続開始から10年を経過した後にあっては、相手方の同意を得なければその効力が発生しないと規定しており、遺産分割調停の申立てや、審判の取下げが制限されています。

5.まとめ

相続登記の義務化は2021年4月21日に可決・成立しましたので、今後、2024年までを目処に施行される予定です。

相続登記の義務化などの法改正により、今後所有者不明の土地問題は徐々に解消されていくかもしれませんが、現段階ではこの問題の解決には法律家のアドバイスは不可欠と考えます。

例えば自分が事実上使用している土地について、江戸時代や明治時代の方が登記名義人になっている場合を想定してください。

その土地を有効活用する場合、現行法では相続人全員の同意を得て遺産分割協議を行うか、時効取得を主張して対応せざるを得ませんが、このような場合法律家のアドバイスは不可欠かと存じます。

当事務所ではこのような問題について何度も対応したことがございますので、ご相談いただければ幸いです。

お問い合わせ
お電話でのお問い合わせ
03-6273-0024
03-6273-0024
平日午前9時30分~午後6時00分
メールでのお問い合わせ
お問い合わせフォーム