公開日: 2022年02月22日

長年の介護に対する寄与分・特別寄与料について

長年、被相続人の介護などに尽力した相続人がいる場合は、遺産分割の際に他の相続人よりも多くの遺産をもらうことができる可能性があります。
このような制度を「寄与分」といいます。

従来、寄与分は相続人だけにしか認められてきませんでしたが、民法改正によって「特別寄与料」という制度が創設され、相続人ではない親族であっても遺産を分けてもらうことが可能になりました。

寄与分や特別寄与料を主張する場合には、相続人同士で争いになることもありますので、きちんと理解しておくことが大切です。

今回は、寄与分および特別寄与料についてわかりやすく解説します。

1.寄与分とは?

寄与分とは、被相続人の生前に、相続人が被相続人に対して一定の貢献(長年の介護、事業の手伝い、生活費の援助など)をして被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合に、寄与の程度に応じて遺産を多くもらうことができる制度のことをいいます。

相続人と被相続人のかかわり方は人それぞれですので、生前に介護などで時間と労力を費やした相続人が他の相続人と同程度の遺産しかもらうことができないとなると、相続人間に不公平が生じてしまいます。

寄与分は、このような相続人間の不公平を解消して、公平な遺産分割を実現するための制度です。

もっとも、寄与分が認められるためには非常に高いハードルがあります。
そのため、寄与分を主張する場合には、相続人同士で争いになることもありますので、弁護士などの専門家のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。

2.寄与分が認められる要件

被相続人の生前に何らかの貢献をしたというだけでは、寄与分は認められません。

寄与分が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

2-1.「特別の寄与」と評価できること

寄与分が認められるためには、相続人による後見が「特別の寄与」と評価できることが必要になります。

「特別の寄与」とは、相続人と被相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超えた貢献があったことをいいます。

例えば、夫婦であれば協力扶助義務がありますし、親子や兄弟姉妹であれば扶養義務があります。特別の寄与と評価されるためには、このような義務を超えた貢献をしていることが必要となります。

2-2.財産の維持または増加があること

寄与行為(貢献)によって被相続人の財産の減少を防げたり、財産を増加したりできたという事実が必要になります。

2-3.財産の維持または増加との間に因果関係があること

相続人による寄与行為があったとしても、それとは無関係に財産の維持または増加があった場合には、寄与分は認められません。

たとえば、相続人が被相続人を自宅で介護したことによって、本来支払われるはずであった施設利用料の支払いがなくなったという場合には、相続人の行為によって財産の維持があったと評価することができます。

3.特別寄与料について

民法改正によって令和元年7月から特別寄与料の制度がスタートしました。

3-1.特別寄与料とは

特別寄与料とは、被相続人に対して無償で一定の貢献をしていた親族が相続人に対して寄与の程度に応じたお金を請求することができる制度です。

改正前の民法では、寄与分が認められるのは「相続人」に限られていました

しかし、実際には、夫の両親の介護を夫の妻が行うというケースが多くあります。夫の妻は、夫の両親の介護に尽力していたにもかかわらず、相続人でないという理由だけで、相続においては何の評価もされませんでした。

このような事態は、非常に不公平であることから、民法が改正されて相続人以外の親族に対しても貢献に応じた特別寄与料の請求が認められることになりました。

3-2.特別寄与料を請求するための要件

被相続人の親族が特別寄与料を請求するためには、以下の要件を満たす必要があります。

①被相続人の親族であること

親族とは、配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族のことをいいます。

配偶者は、法律上の婚姻関係のある配偶者のことをいい、事実婚に過ぎない内縁の配偶者は含まれません。

②被相続人に対し無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと

親族が被相続人に対して「無償で療養看護その他の労務の提供」をしたことが必要となります。

③財産の維持または増加があったこと

親族の貢献によって被相続人の財産の減少を防げたり、財産を増加したりすることができたという事実が必要になります。

④財産の維持または増加との間に因果関係がある

貢献とは無関係に財産の維持または増加があった場合には、特別寄与料は認められません。
例えば、被相続人の話し相手になり精神的に支えていたとしても、財産の維持や増加とは無関係ですので因果関係は認められません。

4.寄与分や特別寄与料の計算方法

ここでは、寄与分や特別寄与料の計算方法について解説します。

ただし、裁判所が寄与分や特別寄与料を決定する際には、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」定めることができるため(民法904条の2第2項、民法1050条3項)、算出された額を調整することが考えられます。

5-1.寄与分の計算方法

寄与分を計算するには、まず相続財産総額から寄与分の金額を差し引いて「みなし相続財産」の額を算出します。

みなし相続財産の額を法定相続分に従って相続人全員で按分し、寄与分が認められた相続人は、そこに寄与分の額を加えます。

みなし相続財産の額=相続財産の総額 - 寄与分の額

寄与分が認められた相続人の相続分=みなし相続財産の額 × 法定相続分 + 寄与分の額
その他の相続人の相続分=みなし相続財産の額 × 法定相続分

5-2.特別寄与料の計算方法

特別寄与料が認められる要件は、「無償で療養看護その他の労務の提供をしたことで、被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をした被相続人の親族」でした。

そこで、療養看護を提供した場合と、労務の提供をした場合の2つのケースでの特別寄与料の計算についてご紹介します。

療養看護型の特別寄与料の計算方法

療養看護型の特別寄与料の計算は、次の計算式で求めます。

療養看護型の特別寄与料=介護した日数 × 介護報酬の相当額 × 裁量割合

介護報酬の相当額は、5,000円/日~8,000/日とされることが多いとされています。

また、親族には扶養義務があるため(民法877条2項)、看護の専門家と比べて費用を低減するために裁量割合を乗じることになり、一般に0.5~0.9を掛けて特別寄与料を算出します。実務上は、0.7として計算することが多いでしょう。

家業従事型の特別寄与料の計算方法

家事従事型とは、被相続人が営んでいた事業に対して、特別寄与者が無償や無償に近い形で労務を提供したことで、被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をした際に認められる特別寄与料です。

この場合の特別寄与料は、次の計算方法で求めることができます。

特別寄与者が得られたであろう給与額 ×(1-生活費控除割合)× 寄与期間

家事従事型の特別寄与料は、被相続人が営んでいた同業種で同規模の事業における特別寄与者と同年齢層の従業員の年間給与を基準に算出するため、「特別寄与者が得られたであろう給与額」にはこの額を入れます(厚生労働省が毎年公表する賃金に関する統計データ「賃金センサス」を基にすることが多くなります)。

また、特別寄与者が被相続人と同居しており家賃や食費を負担していなければ、被相続人から利益を得ていたことになり、「生活費控除割合」として換算・控除することになります。

【参考】「賃金構造基本統計調査」|政府統計の総合窓口

当事者間の合意に基づく場合

ただし、上記の計算方法は家庭裁判所が特別寄与料を算出するための目安であり、当事者間で合意ができるのであれば、協議によっていくらにしてもかまいません。

5-3.特別寄与料の上限

特別寄与料は、相続開始時の遺産総額から遺贈の額を差し引いた残額を超えることができません(民法1050条4項)。

したがって、この額が特別寄与料の上限であり、ご紹介した計算で算出した特別寄与料がこの残額を超えたとしても、特別寄与料はこの範囲内で定める必要があります。

特別寄与料の上限=相続開始時の遺産総額-遺贈の額

5.寄与分・特別寄与料を主張・請求する方法

寄与分や特別寄与料を主張・請求する場合には、以下のような方法で行います。

5-1.寄与分の主張・請求方法

寄与分の要件を満たす相続人は、法定相続分に加えて寄与分を請求することができます。

まずは、遺産分割協議のなかで寄与分を主張していきます。

しかし、寄与分により、他の相続人は自分の遺産の取り分が減ることになるため、簡単に認めてくれるとは限りません。遺産分割協議はあくまでも話し合いの手続きになりますので、他の相続人のうち1人でも寄与分に反対をしている人がいる場合には遺産分割協議を成立させることができません

このような場合には、家庭裁判所に「調停」を申し立てます。寄与分に関する争いについては、「寄与分を定める処分調停」を申し立てることもできますが、「遺産分割調停」を申し立てて、その中で寄与分について話し合うこともできます。

なお、調停が不成立に終わった場合には、自動的に「審判」に移行します。

5-2.特別寄与料の主張・請求方法

特別寄与料の要件を満たす親族は、相続人と話し合い、特別寄与料の金額や支払い方法などについて決めることになります。
当事者同士では話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てることになります。

なお、調停が不成立に終わった場合、自動的に「審判」に移行するのは寄与分のケースと同じです。

6.寄与分と遺留分の関係

最後に、寄与分と遺留分が関係する場合には、法律上どちらが優先されることになるのか見ていきます。

6-1.寄与分がある相続人への遺留分侵害額請求

遺留分侵害額請求の対象は、遺贈または贈与に限られていますので(民法1046条)、寄与分は遺留分侵害額請求の対象にはなりません

そのため、遺留分を侵害する遺贈を受けた人に寄与分があったとしても、請求することができる遺留分相当額には影響はありません。

6-2.遺留分を侵害する寄与分の主張は可能か?

被相続人の遺言により遺産を相続し、他の相続人の遺留分を侵害している場合は、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けることになります。このような場合に、遺留分の請求を受けた相続人は、寄与分を主張することによって遺留分侵害額請求を拒むことができるのでしょうか。

民法上は、「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」(民法904条の2第3項)とされているのみであり、遺留分を侵害する寄与分を定めることが禁止されているわけではありません

しかし、裁判所は寄与分を定めるにあたって遺留分を侵害する結果になるかどうかを考慮しなければならないと判断し、遺留分を侵害する寄与分を認めることについて否定的な見解をとっています(東京高裁平成3年12月24日決定)。遺留分が相続人の最低限の取り分を保障したものであることから、それを考慮して寄与分を決める必要があるからです。

寄与分や特別寄与料についてのよくある質問(FAQ)

寄与分や特別寄与料に時効はある?

寄与分の消滅時効

寄与分を請求する場合には、現行法上は、期限が定められていませんので、時効によって寄与分を請求する権利が消滅するということはありません。

もっとも、遺産分割が成立してしまうと寄与分の請求はできなくなりますので、寄与分の請求は、遺産分割が成立するまでということになります。

ただし、民法改正によって令和5年4月1日からは、寄与分について期限が設けられることになり、相続開始の時から10年経過すると寄与分を主張することができなくなりました。

特別寄与料の消滅時効

特別寄与料を請求する場合には、相続の開始および相続人を知ったときから6か月または相続開始のときから1年という期限があります。

この期限内に請求をする必要がありますが、非常に短い期限となっていますので、相続の開始を知った場合には、早めに弁護士に相談をしましょう。

特別寄与料には相続税がかかるの?

特別寄与料を受けた親族には相続税が課税される

特別寄与料を貰った親族は、相続税法上、被相続人から遺贈を受けたことになり、特別寄与料は相続税の課税対象となります。

さらに、特別寄与料を貰う親族は、原則として1親等の血族及び配偶者以外となるため、相続税の2割加算の対象者となります。

「特別寄与料の金額が定まったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」に相続税を申告・納付しなければなりません。

ただし、被相続人の遺産総額が相続税の基礎控除額を超えていなければ、相続税の申告は不要です。

特別寄与料を支払った相続人について

特別寄与料を支払った相続人は、課税対象となる遺産額から特別寄与料を差し引いた額を基に相続税を計算することができます。

ちなみに、相続税の申告後に特別寄与料を支払った場合は、「特別寄与料の金額が定まったことを知った日の翌日から4か月以内」に更正の申告をすることで、還付を受けることが可能です。

7.まとめ

被相続人の生前に介護などによって特別の貢献をした相続人や親族がいる場合には、寄与分・特別寄与料を主張することによって、法定相続分を超える遺産を取得することができるかもしれません。

寄与分や特別寄与料を請求したいという場合は、相続問題の実績豊富な当事務所の弁護士にどうぞご依頼ください。

お問い合わせ
お電話でのお問い合わせ
03-6273-0024
03-6273-0024
平日午前9時30分~午後6時00分
メールでのお問い合わせ
お問い合わせフォーム