コラム
借地・借家の立退き
◆ 相談内容
借地(建物所有を目的とする地上権及び土地の賃借権であることを前提)・借家の契約期間が満了すれば、借主の退去・立退きが認められるのか、という相談をよく受けますので、ブログにしました。
◆ 賃貸借契約終了の要件
1 借地について
契約期間が満了すれば、直ちに契約が終了とされるわけではありません。
借地借家法5条1項・2項及び6条において、契約期間が満了した場合であっても、賃貸借契約を終了させるためには、以下の要件が必要であるとされています。
※借地上に建物がある場合を前提とします。
A 借地上の借主から契約の更新請求があった場合
①地主側が遅滞なく異議を述べる必要があること。
①地主側が遅滞なく異議を述べる必要があること。
B 借地上の借主が土地の使用を継続している場合
①地主側が遅滞なく異議を述べる必要があること。
②上記①の異議に正当の事由があること。
2 借家について
借家については、上記要件より更に複雑です。借地借家法26条~28条によれば、契約期間が満了した場合であっても、賃貸借契約を終了させるためには、以下のことが必要であるとされています。
A 契約期間が満了するとき
①契約期間の満了前、1年前から6か月前までに、契約を更新しない旨の通知を相手方にすること。
②建物の借主(転借人)が契約期間満了後も建物の使用を継続している場合には、遅滞なく異議を述べること。
③上記②の異議に正当の事由があること。
B 解約申入れをするとき
①解約申入れをして6ヶ月経過で賃貸借が終了するが、その場合であっても、借主(転借人)が契約期間満了後も建物の使用を継続している場合には、遅滞なく異議を述べること。
②上記①に正当の事由があること。
◆ 正当の事由について
では、上記の「正当の事由」は、どのような場合に「正当の事由がある」とされるのでしょうか。
1 借地について
借地の「正当の事由」については、以下のア~オの点が考慮されます。
ア 賃貸人が土地の使用を必要とする事情
オーナーが自分の居住のための建物を建築したり、事業に利用するのが典型例ですが、オーナーの家族がその土地を必要とする場合も含まれるとされています。
イ 賃借人が土地の使用を必要とする事情
賃借人が自分の居住用のために必要とする事情があるか、事業や家族のために必要とする事情があるか否かが考慮され、賃借人側の必要性の事情が、上記アの賃貸人側の必要性の事情よりも大きければ、
「正当の事由」を否定する方向性に働きます。
ウ 借地に関する従前の経過
借地契約にあたっての権利金・更新料の授受、賃借人の利用期間や賃料の支払状況も、「正当の事由」の判断に当たり考慮されます。
権利金・更新料の授受があれば、「正当の事由」が否定する方向性に働きますし、賃借人の利用期間が長期間であったり、賃料不払いがあった場合には「正当の事由」が認められる方向性になります。
エ 土地の利用状況
建物の老朽化や法令違反の有無、賃借人の建物の利用状況などが考慮されます。
オ 立退料
①上記ア~エの場合を考慮に入れて「正当の事由」の有無を判断するのでですが、それだけでは、賃貸借契約を終了させるのに十分ではない場合、正当事由の補完材料として立退料が必要となります。従って、立退料さえ提供すれば、「正当の事由」が認められるわけではありませんので、注意が必要です。
②借地の立退料については、決まった定式があるわけではありません。賃貸人・賃借人の土地の使用とする事情に応じて、移転実費で足りるか、借地権価格を考慮に入れるか、営業上の損失なども含めるか等、判断します。
③なお、「正当の事由」は、前述の異議を申し出たときに必要となりますので、その後の事情の変化があったとしても「正当の事由」があるとは認められていません。
2 借家について
借家の「正当の事由」については、以下のア~カの点が考慮されます。
ア 賃貸人が建物の使用を必要とする事情
オーナーが自分の居住のための建物を建築したり、事業に利用するのが典型例ですが、建物の老朽化により立替を必要とする場合も認められています。
イ 賃借人が建物の使用を必要とする事情
賃借人が自分の居住用や事業のために建物が必要か否かが考慮され、賃借人側の必要性の事情が、上記アの賃貸人側の必要性の事情よりも大きければ、正当の事情を否定する方向性に働きます。
ウ 建物の賃貸借に関する従前の経過
賃料が相当か、賃料の滞納がないか、契約が長期間に亘っているか否かも、「正当の事由」の判断に当たり考慮されます。
賃料が低廉である場合、賃借人の利用期間が長期間である場合、滞納賃料がある場合には「正当の事由」が認められる方向性にななります。
エ 建物の利用状況
賃借人が建物の使用目的に違反していないか、建物を使用しているか否かなどが考慮されます。
オ 建物の現況
建物が老朽化していたり、耐震性に問題があるなどで、建替えや改築が必要か否かが考慮されます。
但し、建物賃貸借のオーナー様側の管理に問題がある場合や、建物の修繕が必要な状況であっても、賃借人の必要性が高い場合には必ずしも「正当の事由」が認められるとは限りません。
カ 立退料
①上記ア~オの場合を考慮に入れて「正当の事由」の有無を判断するのでですが、それだけでは、賃貸借契約を終了させるのに十分ではないという場合、正当事由の補完材料として立退料が必要となります。従って、立退料さえ提供すれば、「正当の事由」が認められるわけではありませんので、注意が必要です。
②借家の立退料の算定についても決まった定式があるわけではなく、悩ましいところですが、移転実費や転居後の賃料と現賃料の差額から算出する方法や借家権価格を基準に算出する方法、両者を組み合わせる方法等があります。
◆ まとめ
このように、借地・借家の退去が認められるか否かは一概に決めることができません。立退きについては示談交渉で終了するケースの方が多いと思いますが、「正当の事由」の有無をめぐって裁判で争われるケースも多いです。このような場合、弁護士に相談することをお勧めいたします。