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投資信託の相続|手続と対策

老後資金に余裕がある方は、預貯金で保有するのではなく、NISAやiDeCoなどの投資信託による資産運用をすることがあるでしょう。
このような投資信託も相続財産に含まれることになりますので、相続人としては、投資信託も含めて遺産分割をしなければなりません。

しかし、投資信託は、金融商品という特性から現金や預貯金とは異なる注意点があります。相続トラブルを回避するためには、これらの特徴をしっかりと押さえておくことが大切です。

今回は、相続人および被相続人向けに、投資信託の相続手続きと対策について解説します。

1.投資信託と相続との関係

投資信託とは、投資家から集めたお金を運用の専門家が債券や株式などに投資・運用する商品のことをいいます。

投資信託の運用は、市場環境などによって変動しますので、運用がうまくいって利益が生じることもあれば、運用がうまくいかず損失が生じることもあります。

投資信託を利用している投資家には、投資信託の運用益を受け取ることができる権利があります。このような権利を「受益権」といいます。

被相続人が投資信託を行っていた場合には、投資信託の受益権という権利が相続の対象に含まれます。そのため、相続人は、受益権を相続財産に含めて遺産分割を進めていかなければなりません。

2.投資信託を相続する方法|相続人向け

では、投資信託が相続財産に含まれる場合には、どのように相続すればよいのでしょうか。

2-1.投資信託の評価方法

投資信託は日々価格が変動する金融商品ですので、投資信託を相続する際には、当該投資信託を適切に評価する必要があります。

仮に相続税評価額を用いて計算した場合、投資信託には、その種類に応じて以下のとおりの計算方法があります。

①一般的な投資信託

一般的な投資信託の相続税評価額は、相続の発生日(被相続人の死亡日)に解約を申し出た場合に証券会社から受け取ることができる金額が基準です。その金額は、以下のような方法で計算します。

1口あたりの基準価格×口数-源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額-信託財産留保額および解約時の手数料

②MRF

MRFとは、「マネー・リザーブ・ファンド」の略で、安全性の高い公社債などを運用する投資信託です。MRFの評価額は、以下のような方法で計算をします。

1口あたりの基準価格×口数+再投資されてない未収分配金-源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額-信託財産留保額および解約時の手数料

③上場投資信託(ETF、REIT)

上場投資信託とは、金融商品取引所のみで取引することができる投資信託です。上場投資信託は、相続税評価額の計算が特殊で、以下の基準の中から最も低い金額の評価額に口数をかけたものが相続税評価額となります。

  • 被相続人が死亡した日の終値
  • 被相続人が死亡した月の終値平均
  • 被相続人が死亡した月の前月の終値平均
  • 被相続人が死亡した月の前々月の終値平均

2-2.投資信託を相続する流れ

投資信託が相続財産に含まれる場合には、以下のような流れで遺産分割を行います。

①遺言の有無を確認

被相続人の遺言がある場合には、遺言に従って遺産を分けることになります。
仮に遺言によって遺留分が侵害されている場合には、遺留分侵害額請求が可能です。

②相続人・相続財産調査

相続人調査では、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍謄本、除籍謄本を取得し、誰が相続人になるのかを確定させます。

また、相続財産調査では、被相続人が取引をしていた証券会社に照会をし、被相続人が保有する投資信託の内容を明らかにします。

③遺産分割協議

遺言がない場合には、被相続人の遺産は、相続人による遺産分割協議によって分けます。

なお、遺産分割協議がまとまった場合には、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印で押印をします。

④証券会社での移管手続き

投資信託の相続では、新たに相続人が投資信託口座を開設する必要があります。そのため、まずは被相続人が投資信託を行っていた証券会社に連絡し、必要書類の提出を行い、口座の開設をしなければなりません。

証券会社による審査が完了し、口座の開設ができると、被相続人名義の投資信託は、相続人の口座に移管されます

3.相続トラブルを回避する方法|被相続人向け

一方、相続人による相続トラブルを回避するためには、被相続人が生前に相続対策を行うことが重要です。

3-1.生前の相続対策の必要性

投資信託を行っている方は、以下のような理由から生前の相続対策が必要となります。

①財産の把握が困難

預貯金であれば預貯金通帳、不動産であれば権利証や固定資産税納税通知書などで財産の存在を把握することができます。しかし、投資信託では、電子交付も一般的であり、証券や証券会社からの書面が手元に残っているとは限りません

そのため相続人は、投資信託の存在を把握することが困難といえます。

②誰が取得するかで揉める

投資信託に限った話ではありませんが、遺産相続の場面では、誰がどのような財産を取得するかで揉めることがあります。お互いの意見が対立し、話し合いによる解決が困難な場合には、遺産分割調停や審判にまで発展してしまいます。

大切な家族が遺産をめぐって揉めることがないようにするには、生前の相続対策が不可欠です。

③相続税の負担

相続財産の総額によっては、相続人に相続税の負担が生じます。相続財産が現金や預貯金がメインであればそこから支払うことができますが、不動産や投資信託がメインだと、相続税の納税資金が不足するという事態にもなりかねません。

相続人に負担をかけないようにするには、生前に投資信託を解約するなどして、納税資金を確保することが必要です。

3-2.生前の相続対策としては遺言書の作成がおすすめ

生前の相続対策としては、「遺言書の作成」を思い浮かべる方も多いでしょう。遺言書の作成は、生前の相続対策の代表的方法のひとつであり、相続トラブルを回避する方法として非常に有効な手段です。

遺産分割協議では、相続人全員の同意がなければ有効な遺産分割協議を成立させることができません。そのため、1人でも反対する相続人がいると、遺産分割の手続きが長期化し、相続人間で争いが生じてしまいます。

しかし、遺言書では、遺産分割方法を指定することができますので、すべての財産について遺産分割方法の指定をしておけば、相続人による遺産分割協議が不要になります。

ご自身の思い描いた相続を実現するためにも、元気なうちから遺言書を作成することをおすすめします。

4.投資信託の相続に関する注意点

投資信託が関わる相続では、特に以下の点に注意が必要です。

4-1.遺産分割時と解約時で価格が変動することがある

投資信託は、日々価格が変動する金融商品です。銘柄によっては価格変動が大きいものもあり、遺産分割時の評価額と解約時の評価額に大きな差が生じるものもあります。

遺産分割時には1000万円の価値があった投資信託が解約時には600万円まで値下がりしてしまったとしても、投資信託を取得した相続人の自己責任として受け入れなければなりませんので注意が必要です。

このような事態を回避するには、遺産分割の方法として、「解約時の評価額を基準として、法定相続分で分割する」などの工夫が必要になります。

4-2.信託財産留保額が発生する可能性がある

投資信託の銘柄によっては、解約することで信託財産留保額が発生するものもあります。

信託財産留保額が発生する銘柄だと、想定していた評価額よりも低い金額しか受け取ることができないおそれもありますので、相続後に解約をお考えの方は、事前に証券会社に確認するようにしましょう。

4-3.投資信託受益権(元本償還金や収益分配金)も遺産分割の対象となる

被相続人が投資信託の元本償還金収益分配金を受け取る前に死亡した場合には、元本償還金や収益分配金についても相続の対象に含まれます。
そのため、遺産分割協議の際には、この点も含めて手続きを行わなければなりません。

収益分配金等は、遺産分割の対象とすることを忘れることが多い財産のひとつですので注意が必要です。

5. 投資信託と相続についてのよくある質問(FAQ)

投資信託がある場合、遺言書で遺産を分ける際に気を付けることは?

投資信託の受益権(投資信託の運用収益などを受け取ることのできる権利)は、相続が開始すると複数の相続人がその権利を有する「準共有」の状態になり、結果的には遺産分割協議が必要になってきます。
よって、投資信託がある相続でも、遺言書の作成が有効な手段であることには変わりありません。

しかし、遺言書で金額を具体的に書いてしまうと、投資信託等の場合は金額が変動してしまい、思った通りの分割が出来なくなります(割合を指定したとしても端数が出てしまうことがあります)。

そこで、「○○ファンドは長男誰々に」など、ファンドごとに分けて遺言する方法があります。口数を指定してどの相続人が何口相続するなどを指定して分割する方法も有効でしょう。

遺産分割をせずに投資信託を相続人で共同管理できますか?

投資信託の口座は、日本では複数人で共同して持つことが出来ないため、受益権の準共有の状態では投資信託の名義変更をすることができません。また、受益権の権利行使も難しくなります。

よって、遺産分割をせずに投資信託を相続人で共同管理をすることは難しく、遺言書もしくは遺産分割協議によって解決することが望ましいです。

6.まとめ

投資信託も、現金や預貯金と同様に相続財産に含まれます。しかし、日々価格が変動するという性質上、どの時点の金額で投資信託を評価すべきかでトラブルが生じることもあります。
そのため、投資信託を行っている方は、遺言書を作成するなどして、相続トラブルの発生を回避することが大切です。

また、投資信託を相続した相続人は、証券会社で新たに口座を開設しなければならないなどの手続きが必要になります。
ひとりではどのように相続手続きを進めればよいかわからないという場合には、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。

生前の相続対策をお考えの方や相続が発生してお困りの方は、あたらし法律事務所にぜひご相談ください。

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