公開日:2019年03月11日

遺留分を考慮した事業承継対策

事業承継

中小企業の経営者にとって、事業承継は、いつかは考えなければならない問題です。経営者が高齢になってからでは、事業承継の選択肢も少なくなってきますので、早めに対策を講じることが大切です。

特に、後継者に会社株式を承継するケースでは、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がありますので、遺留分侵害額請求への対応も考慮したうえで、事業承継対策を考えていかなければなりません。

今回は、経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例を利用した事業承継対策について解説します。

1.事業承継にも「遺留分」は関係する?

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことですので、相続における遺留分がどのように関係してくるのかあまり理解できないという方もいるかもしれません。そこで、まずは事業承継と遺留分との関係について説明します。

1-1.会社株式は個人の財産

会社の重要事項を決議するためには、発行済み株式の3分の2以上の議決権を保有している必要があります。そのため、後継者が会社を安定的に支配していくためには、自社株式を後継者に集中することが重要になります。

現経営者が既に3分の2以上の議決権を有する株式を保有している場合には、当該株式を後継者に承継させることになりますが、現経営者の保有する自社株式は、会社の資産ではなく、現経営者個人の資産になります。

そのため、現経営者が死亡した場合には、自社株式についても預貯金や不動産などと同様に相続財産に含まれることになります。

1-2.遺留分を考慮した事業承継

遺留分とは、遺言などに関わらず、兄弟姉妹以外の相続人が相続財産を受けることを保障されている一定割合のことをいいます。遺言などによって他の相続人が過大な財産を取得し、自己の取得分が遺留分を下回ることになった場合には、遺留分を侵害された相続人は、自己の遺留分に相当する金額を取り戻すことができます。

これを「遺留分侵害額請求」といいます。

自社株式が相続財産の大部分を占める場合には、何の対策も講じることなく後継者に自社株式を集中させるために承継させてしまうと、遺留分を侵害された相続人から侵害された遺留分に相当する金額の返還を求められることがあります。

後継者に遺留分相当額を支払う経済的な余裕があればよいですが、十分な資金がない場合には、自社株式の一部を手放したり、事業用の資産の一部を売却したりして支払わなければなりません。そうすると結果として自社株式の分散を招くなど、円滑な事業承継にとっては大きなマイナスとなってしまいます。

このような事態を回避するために、相続人の遺留分にも配慮した事業承継が重要になるのです。

2.遺留分対策には経営承継円滑化法を活用

円滑な事業承継のためには、相続人の遺留分に対する対策が必要になります。

遺留分の対策を講じるにあたっては、経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例を利用することが有効な手段となります。

以下では、経営承継円滑化法のうち遺留分に関する民法の特例についての概要を説明します。

2-1.遺留分に関する民法の特例とは

「遺留分に関する民法の特例」とは、経営承継円滑化法によって定められた制度の1つです。

遺留分に関する民法の特例には、「除外合意」と「固定合意」があり、それらを利用することによって、自社株式が分散するリスクを軽減することができる、将来の株価の上昇による遺留分の増加を防ぐことができるなど、円滑な事業承継を実現することが可能になります。

①除外合意

推定相続人全員の合意により、後継者が旧代表者から贈与された特例中小企業者の株式などの全部または一部について、その価額を遺留分の算定財産の価額に算入しないこととする制度のことをいいます。

これによって、後継者が贈与などによって取得した自社株式について、他の相続人は遺留分の主張をすることができなくなりますので、相続紛争のリスクを抑えながら、後継者に対して集中的に自社株式を承継させることができます。

②固定合意

推定相続人全員の合意により、後継者が旧代表者から贈与された特例中小企業者の株式などの全部または一部について、遺留分を算定するための財産価額に算入すべき価額をその「合意の時点における価額」とする制度のことをいいます。

これによって自社株式の価額が上昇したとしても、遺留分の額に影響はありません。よって、後継者の経営努力によって株式価値が増加したとしても、相続発生後に想定外の遺留分侵害額請求を受けることがなくなります。

なお、「合意の時点における価額」とは、推定相続人が勝手に決定することができるものではなく、弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人がその時点における相当な価額として証明したものに限ります。

2-2.遺留分に関する民法の特例の適用要件

遺留分に関する民法の特例の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

①特例中小企業者であること

経営承継円滑化法では、遺留分に関する民法の特例の適用対象を「特例中小企業者」に限定しています。

特例中小企業者とは、経営承継円滑化法2条で定める中小企業者のうち、以下の要件をいずれも満たす会社のことをいいます(経営承継円滑化法3条1項)。

  • 3年以上継続して事業を行っていること
  • 金融商品取引所に上場している株式を発行していないこと
  • 店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行していないこと

②先代経営者が旧代表者であること

旧代表者とは、特例中小企業者の代表者であった者(代表者である者を含む)であり、他の者に対して、その特例中小企業者の株式などの贈与をした者のことをいいます。

以前は、親族内承継のみに限られていましたが、法改正によって親族外承継についても適用されることになりました(経営承継円滑化法3条2項)。

③後継者であること

後継者とは、旧代表者からその特例中小企業者の株式などを相続、遺贈もしくは贈与によって取得したものであり、その特例中小企業者の総株主の議決権の過半数を有し、かつその特例中小企業者の代表者であるものをいいます(経営承継円滑化法3条3項)。

④その他の要件

後継者が所有する株式などのうち、除外合意または固定合意の対象となる株式を除いたものの議決権の数が全体の100分の50を超える場合には、除外合意と固定合意はともに適用されません(経営承継円滑化法4条1項)。

この場合には、他の推定相続人によって遺留分侵害額請求権が行使されたとしても、後継者による経営の承継には支障を来さないと考えられているからです。

3.遺留分に関する民法の特例の利用方法とは?

遺留分に関する民法の特例を利用するためには、上記の適用要件を満たしたうえで、以下のような手続きを行う必要があります。

3-1.推定相続人全員および後継者の合意

遺留分に関する民法の特例を利用するためには、まずは、後継者を含む先代経営者の推定相続人(ただし、遺留分を有する者に限る)全員で合意をして、合意書を作成する必要があります(経営承継円滑化法4条1項)。

合意書には、主に以下のような事項を記載します。

①合意が会社の経営承継の円滑化を図ることを目的とすること

②後継者が先代経営者から贈与などによって取得した自社株式について、遺留分の計算から除外すること(除外合意)、または、遺留分の計算に算入すべき価額を固定すること(固定合意)

③後継者が代表者でなくなった場合などに後継者以外の者がとることができる措置

④推定相続人間の公平を図るための措置

3-2.経済産業大臣の確認

次に、後継者は、上記の合意をした日から1か月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣に申請する必要があります(経営承継円滑化法7条)。

申請書に添付する主な書類としては、以下のものがあります。

①定款および株主名簿の写し
②登記事項証明書
③従業員数証明書
④貸借対照表、損益計算書
⑤上場会社でない旨の誓約書
⑥印鑑証明書
⑦現経営者、推定相続人全員および後継者の戸籍謄本または抄本
⑧(固定合意の場合のみ)税理士などの証明書

3-3.家庭裁判所の許可

最後に、経済産業大臣から「確認書」の交付を受けた場合には、後継者は、確認を受けた日から1か月以内に家庭裁判所に「申立書」を提出して、許可を受ける必要があります(経営承継円滑化法8条)。

推定相続人全員および後継者の合意が真意によるものであることが確認されれば、家庭裁判所から許可を受けることができます。

4.まとめ

自社株式の承継にあたっては、相続人の遺留分にも配慮しておかなければ、遺留分のめぐる争いによって、自社株式が分散するなどして、円滑な事業承継を行うことができません。

事業承継にあたっては、法律面と税務面の両面から対策を講じる必要がありますので、後継者への事業承継を検討されている方は、早めに弁護士に相談をすることをお勧めします。

お問い合わせ
お電話でのお問い合わせ
03-6273-0024
03-6273-0024
平日午前9時30分~午後6時30分
メールでのお問い合わせ
お問い合わせフォームへ