公開日: 2021年12月23日
更新日:

個人再生と住宅ローン特則について

「借金の整理をしたいけど、ローンが残っている住宅(マイホーム)は手放したくない!」と考えている方は多いかもしれません。

実は、債務整理方法の1つである個人再生で「住宅ローン特則」を利用することによって、住宅を残したまま他の借金を整理することが可能です。
個人再生は、裁判所に申立てをして再生計画の認可を受けることによって、借金の総額を大幅に減額してもらい、減額後の借金を原則3年(最長5年)で返済していくという手続きです。

個人再生をすれば住宅ローン以外の借金は大幅に減額することができますので、他の借金が原因で住宅ローンの支払いが困難になっている方にとっては非常に有効な制度といえます。

今回は、住宅を残したまま債務整理を行いたいとお考えの方に向けて、個人再生と住宅ローン特則について解説します。

1.個人再生の住宅ローン特則とは?

1-1.債務整理でマイホームを失う理由

債務整理をすると、マイホームを失ってしまう可能性が高いです。
これは、住宅ローンを債務整理の対象に含めると、債権者からローン残務の一括返済を求められ、それに応じられなければ不動産が競売にかけられてしまうからです。

マイホームを購入する際に金融機関の住宅ローンを利用すると、金融機関は土地と建物に対して抵当権を設定します。万が一住宅ローンの返済が滞ったとしても、抵当権を実行し当該不動産を競売にかけて売却することによって売却代金から優先的に返済を受けることができるのです。

しかし、個人再生の「住宅ローン特則(住宅資金特別条項)」を利用すれば、大切な自宅を残したまま借金を整理できる可能性があります。
住宅ローン特則とは、正式には「住宅資金貸付債権に関する特則」と呼ばれる制度です。

住宅ローン特則では、住宅ローン以外の借金のみを整理の対象にすることができます。これにより、抵当権の実行によって自宅を処分されてしまうという事態を回避することが可能になります(しかし、住宅ローンについては個人再生による減額の対象にはならず、従来どおり返済していく必要があります)。

【任意整理や自己破産で住宅を残すことは難しい】
まず、任意整理は一部の債権者を除いて債務整理を進めることができますので、住宅ローンの債権者を任意整理の対象から外すことで競売を避けることは可能です。とは言え、任意整理では将来利息のカットや支払い条件の変更を求めるのがメインで、借金額の大幅な減額を期待することができません。そのため、任意整理で住宅ローン債権者を除外して債務整理を進めたとしても、大きな減額効果は期待することができず、住宅ローンの支払いを継続していくのが難しいことも多いです。
自己破産は、裁判所から免責決定を受けることによって借金を0にできるという債務整理手続きですが、一定以上の財産がある場合には、それを換価処分して債権者への配当に回さなければなりません。不動産を有している場合にはその不動産も換価処分の対象になりますので、不動産を残したまま自己破産を行うことはできません。

【関連リンク】取扱分野|債務整理

1-2.住宅ローンを完済している場合の個人再生

では、住宅ローンを完済しているマイホームは個人再生をしても手元に残せるのかというと、これについては難しいケースが多いです。

まず、住宅ローン特則はローン返済中の住宅が対象なので、完済済みの住宅には使えません。
そして、個人再生では「清算価値保障の原則」というルールにより、手持ちの資産全体の評価額相当を債権者に返済する必要があります。

この資産には不動産も含まれるため、住宅の価値が高いと返済額も大きくなり、収入に対して現実的でない返済計画になる可能性があります。
この場合、個人再生自体が認められないリスクもあります。

ただし、住宅価値がそれほど高くなく、安定した収入があれば住宅を残しながら個人再生ができる可能性もあります。

これについては、具体的な不動産評価額や資産の所持状況、収入状況によって結果が変わるため、弁護士に詳細な相談をして個別の状況に基づいた判断を仰ぐことが重要です。

2.住宅ローン特則の利用条件

住宅ローン特則は、他の債権者が不利になる制度(債権者平等の原則の例外)となりますので、認めてもらうためには以下のような要件を満たす必要があります。
一つでも満たしていないと住宅ローン特則は使えないため、ご注意ください。

2-1.住宅資金貸付債権が存在すること

住宅ローン特則の対象になるのは、「住宅資金貸付債権」に限定されています。

住宅資金貸付債権とは、住宅の購入、建設、改良(リフォーム)として借り入れた分割払いの定めのある資金であり、抵当権が住宅に設定された場合の債権です。

自宅に抵当権が設定されていたとしても、例えばそれが事業の運転資金として借り入れたものであれば住宅資金貸付債権にはあたりません。

2-2.再生債務者が所有する住宅であること

住宅ローン特則を利用するためには、個人再生の申立てをする人が所有している居住用の住宅であることが必要となります。

居住用の住宅という条件ですが、現に居住していることまでは必要なく、単身赴任などによって一時的に住居を離れているという場合でも住宅ローン特則を利用することができます。

しかし、投資用の不動産や別荘などは居住用の住宅とはいえませんので、住宅ローン特則を利用することはできません。

また、自宅兼事務所として利用している住宅の場合には、床面積の2分の1以上を自宅として利用していなければ、住宅ローン特則を利用することができません。

2-3.住宅ローン以外の債権のための抵当権が設定されていないこと

住宅ローン特則を利用する場合には、自宅に住宅ローンを担保するための抵当権が設定されていることが条件となりますが、さらに住宅ローン以外の抵当権が設定されていないことも必要になります。

たとえば、住宅ローンの借入として自宅に抵当権を設定した後、事業資金として自宅を担保に借入をしたような場合には、住宅ローン特則を利用することができません。

2-4.保証会社の代位弁済から6か月経過していないこと

住宅ローンを一定期間滞納していると、住宅ローンの保証会社によって住宅ローンの一括弁済がなされることがあります。これを「代位弁済」といいます。

このような代位弁済がなされた場合には、原則として住宅ローン特則の利用はできません。

ただし、保証会社による代位弁済から6か月が経過する前に個人再生手続開始の申立てをすれば、例外的に住宅ローン特則を利用することができます(=住宅ローンの巻き戻し。民事再生法1982項)。

そのため、住宅ローンの滞納があり、保証会社による代位弁済がなされてしまった場合には、すぐに個人再生の申立てをする必要があります。

2-5.アンダーローン・オーバーローンは要件ではない

住宅ローンが残っている場合、その住宅ローンが「アンダーローン」なのか「オーバーローン」なのかという点を確認してみるべきです。

アンダーローンは住宅の時価がローン残高を上回る状態(住宅の時価>ローン残高)で、オーバーローンは逆にローン残高が時価を上回る状態(ローン残高>住宅の時価)です。

オーバーローンの場合は、住宅に実質的な資産価値がありません。例えば、住宅の時価が3,000万円でローン残高が4,000万円だとすると、住宅を売却しても1,000万円の不足が生じます。
このようなオーバーローンでは、住宅ローン特則を使って住宅を残しやすくなります

オーバーローンだと、清算価値を計算する際、この住宅の価値はゼロとして扱われます。
つまり、オーバーローンの住宅を残したとしても返済額が増えることがなく、個人再生後の返済に対する経済的な負担が少なくて済みます。

とはいえ、「アンダーローンだから住宅ローン特則を使えない」ということはありません。
ただ、アンダーローンの時は個人再生後の返済額が高くなるため、ご自身の住宅ローン金額と住宅の時価については事前に確認しておくようにしましょう。

3.住宅ローン特則の種類

住宅ローン特則で定めることができる内容には5種類があり、それぞれ支払い方法や返済期限などが異なります。

どのような種類の住宅ローン特則を選択するかは、支払い能力や債権者の対応などさまざまな事情を考慮する必要がありますので、個人再生を依頼した弁護士と相談して決めていくようにしましょう。

  • そのまま型:住宅ローンの滞納がない場合などに、個人再生手続き後も当初の契約通りに住宅ローンを返済していく制度です。
  • 期限延長型:住宅ローンの支払いを最長で10年間延長することができる制度です。
  • 期限の利益回復型:期限の利益回復型とは、滞納している住宅ローンの元金と遅延損害金を原則3年(最長5年)で返済することによって、喪失していた期限の利益を回復させる制度です。
  • 元金猶予期間併用型:期限延長型でも住宅ローンの支払いが困難な場合に、再生計画に基づく弁済期間中は、住宅ローンの元金の一部および利息のみを支払っていくことができる制度です。
  • 同意型:住宅ローンの債権者の同意があれば、上記の3つの型以外の内容を定めることができます。

4.まとめ

住宅ローン特則を利用することによって、住宅を維持したまま借金の整理をすることが可能です。
しかし、個人再生は再生計画案などの必要書類も多く、専門的な知識と経験が必要になります。

住宅ローン特則を利用した個人再生をお考えの方は、お早めにあたらし法律事務所の弁護士にご相談いただければと思います。

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