相続放棄とは|負の遺産を相続しない方法
被相続人が死亡して相続が開始した場合には、被相続人の遺産の分け方について、相続人間で話し合いをすることになります。 …[続きを読む]
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会社オーナーである経営者が亡くなると、相続人の間で「事業を継続するのか」、継続するとすれば「誰が事業を相続するのか」について話し合う必要があります。
今回は、オーナー会社の経営を担う社長が亡くなった時の相続手続きや、事前にできる対策「事業承継」などについて、知っておくべきポイントを解説します。
目次
オーナー会社の経営者が亡くなると、故人が所有していた財産の相続が発生します。
ただし、相続されるのはあくまで会社の株式などであり、社長(代表取締役)の地位や会社の財産が相続されるわけではありません。
代表取締役は、会社との委任契約に基づき受任者として職務を行いますが(会社法330条)、委任契約は受任者の死亡によって終了します(民法653条1号)。
したがって、代表取締役が死亡した時点でその地位は失われ、相続人へ承継されることはありません。
亡くなった代表取締役が、自社株式を100%保有していたとしても、会社の財産は相続の対象ではありません。あくまでも法律上は、会社の財産と個人の財産は別物として取り扱われるためです。
そのため、相続の対象になるのは、亡くなった経営者が個人として所有する財産に限られ、会社財産は相続の対象外です。
亡くなった経営者が保有していた自社株式は、経営者個人の財産であり相続の対象です。
自社株式を誰が相続するかについては、遺言書または遺産分割協議等によって決定します。
自社株式を相続すると、株主総会において議決権を行使することが可能です。取締役の選任・解任も株主総会決議によって行うため、多数派株主となった相続人が、事実上会社の経営を掌握することになります。
中小企業では、会社の債務を代表取締役が連帯保証していることがあります。この場合、連帯保証債務は、代表取締役個人の債務であるため、代表取締役が亡くなった際には相続の対象となり、相続人は連帯保証債務を法定相続分の割合で承継します。
しかし、金融機関など債権者の合意があれば、新たに代表取締役を承継する相続人に連帯保証債務も承継させることができます。
代表取締役が会社の債務の根保証の保証人になると、保証する債務の上限額を極度額として定め、契約後発生する不特定の債務をその範囲で保証する責任を負います。
根保証では、保証人が亡くなると債務の元本が確定し(民法465条の4第3号)、相続人は確定した元本のみについて保証債務を相続し、相続開始後に発生した債務や損害を相続することはありません。
連帯保証、根保証いずれの場合にも、相続人が負担しなければならない債務が過大であれば、相続放棄を検討することになります。
オーナー会社の代表取締役が亡くなった場合、後任の代表取締役を選任することになります。
取締役が1人であれば、その取締役が自動的に会社の代表者となります。
一方、取締役が複数人いる会社では、代表取締役は、以下のいずれかの方法によって取締役の中から選任します(会社法349条3項)。
同族企業では多くの場合、株式の過半数を保有している支配株主が、株主総会決議によって代表取締役を選任します。
遺言書で後任の代表取締役が指名されていても、その指名は法的効力を有しません。代表取締役は、定款・定款の定めに基づく取締役の互選・株主総会決議のいずれかの方法によって選任されることが法定されているからです。
したがって上記の方法により、遺言書における指定とは異なる代表取締役を選任することも可能です。
ただし、代表取締役に指定された人には過半数の株式が譲渡されることが多いため、実際には指定された人が代表取締役に就任するケースが大半と考えられます。
自社株式を相続したくない場合は、以下の方法をとることが考えられます。
遺産分割協議によって自社株式を承継する相続人を取り決める場合には、「相続したくない」旨を伝え、会社経営の意欲がある他の相続人に相続してもらいます。
ただし、自社株式を他の相続人が相続することにより、相続分に偏りが生じる可能性があります。その場合は、代償金で調整する方法もあります。
遺言書によって自社株式を遺贈されたとしても、遺贈を放棄することは可能です(民法986条1項)。
遺贈を放棄すると、自社株式は相続財産に戻り、改めて遺産分割協議により株式を承継する相続人を決めることになります。
亡くなった経営者個人に借金がある、会社が負っている巨額の債務を連帯保証しているなど、遺産を相続するとかえって負担になるのであれば、相続放棄を検討します。
相続放棄をすると、当初から相続人にならなかったものとみなされ、一切の相続権を失います(民法939条)。自社株式をはじめとする遺産は全く相続できませんが、債務も相続しなくて済むのが相続放棄のメリットです。
ただし、相続放棄は原則として、相続の開始を知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法915条1項)。期限に間に合うように、早い時点で検討と準備を進めましょう。
本当は相続したくなかったにも関わらず、不本意に自社株式を相続してしまった相続人には、以下の対応が考えられます。
会社の事業に将来性があれば、M&A市場において買い手が見つかる可能性があります。好条件で自社株式の売却に成功すれば、余裕資金や老後資金を確保することができます。
M&Aによる株式売却を目指す場合には、M&A仲介業者を通じて買い手を探すのが一般的です。また、M&Aに関する契約締結などについては、弁護士にサポートをご依頼ください。
会社自体は資産超過であるものの、相続人全員に経営を続けていく意思がないのであれば、会社を解散・清算することも検討すべきでしょう。
会社の解散は、株主総会特別決議によって決定します(会社法471条3号、309条2項11号)。会社を解散した旨については、法務局で登記手続きを行った上で、税務署・都道府県税事務所・市区町村に対する届出が必要です。
その後、債権者に対する債務の弁済を経て、株主に対する残余財産の分配を行います。
分配される残余財産が出資額を上回っていれば、利益分についてみなし配当課税が行われ、会社の債権者へ全額の弁済ができなければ、裁判所に特別清算の申立をするか、後述の法人破産の申立をすることになります。
残余財産の分配が完了したら、法務局で清算結了登記手続きを行い、清算結了の旨を税務署・都道府県税事務所・市区町村に対して届け出ます。
なお、会社を解散・清算する際の確定申告は、税務署等への解散の届出後・清算結了の届出後の計2回行う必要があります。ご相談いただければ、会社の確定申告について相談できる税理士をご紹介いたします。お気軽にお申し付けください。
会社が支払不能または債務超過の場合には、法人破産を申し立てる方法もあります。法人破産手続きは、会社財産を換価・処分して、配当するべき財産がある場合には債権者に配当した後、最終的に会社の法人格を消滅させます。
ただし、亡くなった代表者が会社の債務を連帯保証していた場合には、連帯保証人の地位を承継した相続人が代わりに支払う義務を負います。
連帯保証債務は相続の対象となるため、亡くなった代表者が連帯保証債務を負っていたか否かは、必ず調査して確認しなければなりません。
もし過大な連帯保証債務が発生しそうであれば、相続放棄をご検討ください。
オーナー会社の経営者が対策をせずにお亡くなりになると、過大な相続税が発生する可能性があります。
そこで、オーナー会社の経営者が事前にできる相続対策や事業承継の概略について最後に触れておきましょう。
非上場株式には市場価格が存在せず、一定の評価基準によって評価額を算出しますが、この評価基準による計算が時として自社の実態の反映以上に高くなることがあり、結果的に相続税評価額が高額になる一因となってしまいます。
自社株式の評価額が高額で相続税が払えなければ、一部を手放すことや、会社から借入することも考えなければなりません。しかし、自社株式の一部を手放してしまえば、その分議決権を失うことになり、会社から借り入れをすれば、会社の経営が難しくなる可能性もあります。
一方、生前に相続税対策を行い、このような事態に陥ることを防ぐ選択肢もあります。例えば、相続税対策として一般的な、生前贈与を活用すれば、後継者と目する相続人に生前に自社株式を渡しておくことができます。もちろん、生前贈与には贈与税が課税されますが、年間110万円まで非課税になる基礎控除があります。
また、後継者と目する相続人を受取人として生命保険に加入しておけば相続税の納税資金となり、万一他の相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合の対策にもなります。ただし、非課税枠はあるものの、死亡保険金も「みなし相続財産」として相続税の課税対象です。
自社株式を例に取り、相続税対策をご紹介しましたが、オーナー会社の経営者は、ご自分の資産と会社の資産との区別が曖昧になり、自己資金や不動産を会社に貸し付けていたり、会社の債務の保証人になっていたりすることがあります。
会社の財産とご自分の資産とをしっかりと分けて把握し、事前に対策を行っておくことが重要です。
事業承継とは、経営者の相続の有無にかかわらず、会社の事業を後継者へスムーズに移行するためのプロセスです。
帝国データバンクの調査によると、全業種約 27 万社の後継者の不在率は53.9%*と、2023年の数字は過去最低を記録しているものの、後継者不足はまだ過半数を超える状況です。
後継者の育成は、一朝一夕にできるものではありません。事業承継は、できるだけ早めに行うに越したことはありません。
事業承継には、大別すると以下3つの方法があります。
後継者への事業承継は会社だけの問題ではなく、自社株式を相続する親族の問題にもなります。オーナー会社の経営者は、後継者を育て、事業を承継する責任も負っているのです。
事業承継を弁護士に依頼すると、会社の現状調査から事業承継計画を立案してもらうことができ、株式承継や後継者育成など様々なサポートを受けることができます。さらに、相続トラブルを回避できるなど事業承継を弁護士に依頼するメリットは大きいと言えるでしょう。
*【出典】「全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」|帝国データバンク
会社社長(経営者)の相続手続きや、事業承継については注意すべきポイントがたくさんあります。弁護士にご相談いただければ、ご家庭や会社の状況に応じて、さまざまな角度から、円滑な相続・事業承継のサポートが可能です。
また、後継者への事業承継を生前に行いたい場合も、弁護士によるサポートが大いに役立ちます。
ご家族・親子の間で密な話し合いをしないまま事業を承継すると、トラブルが生じる可能性があり、生前対策は非常に重要です。弁護士は、法的な観点から適切な事業承継対策をご提案いたします。
さらに、相続税・贈与税の課税などが気になる方には、提携先の税理士をご紹介し、随時連携してサポートを行います。
会社社長(経営者)の相続手続きや事業承継について総合的なサポートをご希望の方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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