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会社社長(経営者)が亡くなった時の相続手続

会社の経営者が亡くなった場合、相続人の間で「誰が事業を相続するのか」「事業を継続するのか」などについて話し合う必要があります。
トラブルなく経営者の相続を完了するためには、一度弁護士へご相談ください。

今回は、会社社長(経営者)が亡くなった時の相続手続きについて、またその対策となる事業承継などについて、知っておくべきポイントを解説します。

1.会社社長が亡くなった場合の相続

会社の創業経営者が亡くなった場合、その経営者の財産の相続が発生します。
ただし、相続されるのはあくまでも会社の株式などであって、社長(代表取締役)の地位や会社の財産が相続されるわけではない点にご注意ください。

1-1.社長(代表取締役)の地位|相続されない

会社の代表取締役は、会社との間の委任契約に基づいて職務を行います(会社法330条)。

代表取締役は委任契約の「受任者」に当たりますが、委任契約は受任者の死亡によって終了します(民法653条1号)。
したがって、代表取締役が死亡した時点でその地位は失われ、相続人へ承継されることはありません。

1-2.会社の財産|相続されない

さらに、亡くなった代表取締役が創業経営者であり、会社株式を100%保有していたようなケースでも、会社の財産は相続の対象になりません。あくまでも法律上は、会社の財産と個人の財産は別物として取り扱われるためです。

相続の対象になるのは、亡くなった創業経営者が個人として所有する財産に限られ、会社財産は相続の対象外であることを理解しておきましょう。

1-3.会社株式|相続の対象

亡くなった創業経営者が保有していた会社株式は、創業経営者個人の財産であるため相続の対象となります。
会社株式を誰が承継するかについては、遺言書または遺産分割協議等によって決定します。

会社株式を相続した人は、株主総会において議決権を行使することが可能です。取締役の選任・解任も株主総会決議によって行うため、多数派株主となった人が、事実上会社の経営を掌握することになります。

1-4.連帯保証人の地位|相続の対象

特に中小企業では、会社の債務を代表取締役が連帯保証しているケースがあります。この場合、連帯保証債務は代表取締役個人の債務であるため、代表取締役が亡くなった際には相続の対象となる点に注意が必要です。

ただし、極度額の定めがない根保証債務については、その範囲が広範に広がり過ぎて相続人に酷な事態を生じかねないため、相続発生時点ですでに発生しているものを除き、相続の対象外と解されています。

なお、2020年4月1日に改正民法が施行され、極度額の定めがない個人根保証契約は、同日以降締結・更新する場合は無効とされました(民法465条の2第2項)。

2.社長が亡くなった場合の後任社長の選任手続き

会社の創業経営者兼代表取締役が亡くなった場合、後任の代表取締役を選任することになります。

2-1.後任社長の選任手続き

取締役が1人であれば、その人が自動的に会社の代表者となります。
これに対して、取締役が複数人いる場合は、代表取締役を選任するのが一般的です。代表取締役は、以下のいずれかの方法によって取締役の中から選任します(会社法349条3項)。

  • 定款(変更)
  • 定款の定めに基づく取締役の互選
  • 株主総会の決議

同族企業では多くの場合、株式の過半数を保有している支配株主が、株主総会決議によって代表取締役を選任します。

2-2.遺言書で後任社長が指名されている場合

遺言書で後任の代表取締役が指名されていても、その指名は法的効力を有しません。あくまでも代表取締役は、定款・定款の定めに基づく取締役の互選・株主総会決議のいずれかの方法によって選任されます。

したがって上記の方法により、遺言書における指定とは異なる代表取締役を選任することも可能です。

ただし、代表取締役に指定された人には過半数の株式が譲渡されることが多いため、実際には指定された人が代表取締役に就任するケースが大半と考えられます。

3.会社株式を相続したくない場合の対処法

会社株式を相続したくない場合は、以下の方法をとることが考えられます。

  • 遺産分割協議で他の相続人に相続してもらう
  • 遺贈を放棄する
  • 相続放棄をする

3-1.遺産分割協議で他の相続人に相続してもらう

まず、遺産分割協議によって会社株式を相続する人を取り決める場合、「自分は相続したくない」旨を伝えるのがよいでしょう。他に会社を経営する意欲のある相続人がいれば、その人に相続してもらう方向で遺産分割協議を進めれば問題ありません。

ただし、会社株式を他の相続人が相続することにより、相続分の偏りが生じる可能性があります。その場合は、代償金で調整する方法もあります。

3-2.遺贈を放棄する

遺言書によって会社株式を遺贈された場合でも、遺贈を放棄することは可能です(民法986条1項)。

遺贈を放棄した場合、会社株式は相続財産に戻りますので、改めて遺産分割協議により相続する人を決めることになります。

3-3.相続放棄をする

亡くなった創業経営者に個人としての借金がある、経営不振の会社が負う巨額の債務を連帯保証しているなど、遺産を相続するとかえって負担になる状況であれば、相続放棄をすることを検討してもよいと思います。

相続放棄をすると、当初から相続人にならなかったものとみなされ、一切の相続権を失います(民法939条)。会社株式をはじめとする遺産は全く相続できませんが、債務も相続しなくて済むのが相続放棄のメリットです。

相続放棄は原則として、相続の開始を知った時から3か月以内に行わなければなりません(民法915条1項)。期限に間に合うように、早い段階から相続放棄の検討と準備を進めましょう。

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4.不本意に会社株式を相続した場合の対処法

本当は相続したくなかったにも関わらず、不本意に会社株式を相続してしまった場合には、以下の対応をとることが考えられます。

  • M&Aにより株式を売却する
  • 会社を解散・清算する
  • 法人破産を申し立てる

4-1.M&Aにより株式を売却

会社の事業に将来性があれば、M&A市場において買い手が見つかるかもしれません。好条件で会社株式の売却に成功すれば、余裕資金・老後資金を確保することができます。

M&Aによる株式売却を目指す場合には、M&A仲介業者を通じて買い手を探すのが一般的です。また、M&Aに関する契約締結などについては、弁護士にサポートをご依頼ください。

4-2.会社を解散・清算する

会社自体は資産超過であるものの、経営を続けていく意思がないのであれば、会社を解散・清算することも検討すべきでしょう。

会社の解散は、株主総会特別決議によって決定します(会社法471条3号、309条2項11号)。会社を解散した旨については、法務局で登記手続きを行った上で、税務署・都道府県税事務所・市区町村に対する届出が必要です。

その後、債権者に対する債務の弁済を経て、株主に対する残余財産の分配を行います。
分配される残余財産が出資額を上回っている場合は、利益分についてみなし配当課税が行われる点に注意が必要です。

※上記は、会社の債権者に対して債務の弁済をした後にプラスの財産が残る場合を想定しています。会社の債権者へ全額の弁済ができない場合は、裁判所に特別清算の申立をするか、後述の法人破産の申立をすることになります。

残余財産の分配が完了したら、法務局で清算結了登記手続きを行い、清算結了の旨を税務署・都道府県税事務所・市区町村に対して届け出ます。

なお、会社を解散・清算する際の確定申告は、税務署等への解散の届出後・清算結了の届出後の計2回行う必要があります。弁護士にご相談いただければ、会社の確定申告について相談できる税理士をご紹介いたしますので、お気軽にお申し付けください。

4-3.法人破産を申し立てる

会社が支払不能または債務超過の場合、会社をたたむに当たっては法人破産を申し立てる方法もあります。法人破産手続きでは、会社財産を換価・処分して、配当するべき財産がある場合には債権者に配当した後、最終的に会社の法人格を消滅させます。

ただし、亡くなった代表者が会社の債務を連帯保証していた場合、連帯保証人が代わりに支払う義務を負います。

連帯保証債務は相続の対象となるため、亡くなった代表者が連帯保証債務を負っていたか否かは、必ず調査して確認しなければなりません。
もし過大な連帯保証債務が発生しそうであれば、相続放棄をご検討ください。

5.会社社長(経営者)の相続は弁護士にご相談ください

会社社長(経営者)が亡くなった場合の相続や、事業承継については注意すべきポイントがたくさんあります。弁護士にご相談いただければ、ご家庭や会社の状況に応じて、円滑に相続・事業承継を進めるためにさまざまな角度からサポートいたします。

また、生前の段階で後継者への事業承継を行いたい場合も、弁護士によるサポートが大いに役立ちます。
ご家族・親子の間で密な話し合いをしないまま事業承継に進もうとするとトラブルが生じる可能性がありますので、生前対策は非常に重要です。弁護士は、法的な観点から適切な事業承継対策をご提案いたします。

さらに、相続税・贈与税の課税などが気になる方には、提携先の税理士をご紹介し、随時連携してサポートを行います。

会社社長(経営者)の相続手続き・事業承継につき、総合的なサポートをご希望の方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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