
夫婦のあいだで、暴言や人格否定、無視、過度な束縛などが続き、「これってモラハラなのでは?」と悩む方は少なくありません。
モラルハラスメント(モラハラ)は、外から見えにくく、被害者自身も「自分が悪いのでは」と思い込んでしまうケースが多いのが特徴です。
しかし、モラハラによる精神的な苦痛が積み重なると、心身に深刻な影響を及ぼし、離婚を選択せざるを得ない状況に追い込まれることもあります。
本記事では、モラハラ夫・モラハラ妻との離婚を考えている方に向けて、離婚の可否、適切な対処方法、証拠の集め方、別居の注意点などわかりやすく解説します。
1.モラハラとは?
夫婦間でのモラハラは、外から見えにくい一方で、長期化すると精神的な負担が大きくなり、日常生活や健康にも深刻な影響を及ぼします。
まずは、どのような行為がモラハラにあたるのかなど、離婚を検討する際の前提となる基礎知識を解説します。
1-1.夫婦間のモラハラとは?
モラルハラスメント(モラハラ)は、暴言・無視・過度な監視や束縛などによって相手の心を傷つけ、精神的な支配を行う行為を指します。
その多くは家庭内で起こるため周囲には気づかれにくく、被害者自身も「自分が悪いのでは」と思い込みやすいことが特徴です。
モラハラは、DVと違い外傷が残らないため軽視されることがありますが、長期間続くと心身の不調につながる場合も多く、法的にも決して軽い問題ではありません。
「夫(妻)に対して違和感が続く」「言動に恐怖を感じる」といった段階で、早めに専門家に相談することが重要です。
1-2.モラハラ加害者に共通する典型的な行動
夫婦間のモラハラには、いくつか共通する行動パターンがあります。以下のような行為が複数当てはまる場合、モラハラである可能性が高くなります。
①暴言や人格否定を繰り返す
「お前は無能だ」「生きている価値がない」など、人格を傷つける言葉を何度も浴びせる行為です。
喧嘩の延長ではなく、一方的・継続的に行われる点が特徴です。
②無視・黙殺などのコミュニケーション拒否
話しかけても反応しない、必要な情報すら伝えないなど、沈黙によって相手を支配するケースも典型的なモラハラです。
③経済的に支配する(経済的DV)
生活費を渡さない、すべての支出を制限・管理するなどして、相手の生活基盤を奪う行為です。
④行動を監視・束縛する
スマホのチェック、交友関係の制限、外出の制限など、相手の自由を奪う行為はモラハラとして問題視されます。
⑤周囲を巻き込み、被害者を孤立させる
家族や友人に虚偽の悪口を吹き込み、被害者の信用や居場所を奪うケースもあります。
2.モラハラを受けたときの対処方法
以下では、モラハラを受けたときに取るべき基本的な対処方法を説明します。
モラハラに気づいたとき、まず大切なのは「感情的に反応しないこと」と「安全を確保すること」です。冷静に動くことで状況の悪化を防ぐことができます。
2-1.モラハラ夫・モラハラ妻に対して報復してはいけない
モラハラを受けていると、つい反論したり、やり返したりしたくなるものです。
しかし、報復行為は状況を悪化させ、相手の攻撃性をさらに強める危険があります。怒りをぶつけたことで暴言や威圧がエスカレートし、暴力に発展してしまうケースも少なくありません。
また、将来の離婚手続きにおいても、報復行為は自分に不利な材料となる可能性があります。裁判では「夫婦関係を破綻させた責任」が吟味されるため、感情的な行動は避け、冷静に証拠を残しながら対応するほうが賢明です。
2-2.モラハラ被害の主な相談先を知っておく
モラハラは、ひとりで抱え込むほど判断力が鈍り、状況が悪化しやすいため、早めの相談が重要です。モラハラを相談できる窓口には、以下のようなところがあります。
①配偶者暴力相談支援センター
モラハラやDVの相談窓口として全国に設置されています。必要に応じて避難場所や保護命令の情報を得ることができます。
配偶者暴力相談センターでの相談は無料で、匿名相談も可能です。
②警察
モラハラにより生命の危険を感じる、身の安全が脅かされているという場合は、迷わず警察に通報(110番または#9110)をしてください。
- 110番……生命の危険がある緊急時
- #9110(警察相談専用電話)……緊急性はないが警察に相談したいとき
事件性がある場合には、刑事事件として捜査を開始し、被害者の安全確保をしてくれます。
③弁護士
モラハラでの離婚を視野に入れる段階では、弁護士への相談が不可欠です。証拠の集め方、別居の進め方、婚姻費用の請求など、法的に正しい手順をアドバイスしてもらえるため、早めの相談で後々のトラブルを避けることができます。
3.モラハラを理由に離婚はできる?
離婚の方法にはいくつか種類があり、それぞれの方法で離婚できるか否かは、「相手が同意しているかどうか」「モラハラが法的な離婚原因に該当するかどうか」が大きなポイントになります。
以下では、モラハラを理由に離婚できるケースと注意点を説明します。
3-1.協議離婚・調停離婚|相手の同意により離婚が可能
日本でもっとも一般的な離婚方法が「協議離婚」です。夫婦が離婚に合意し、親権や財産分与などの条件について話し合いがまとまれば、どのような理由でも離婚ができ、モラハラを証明する必要もありません。
そのため、相手が離婚に応じている場合は、モラハラがあってもなくても離婚は可能です。
一方で、モラハラ加害者は支配的な性格が強く、話し合いに応じない、条件を不当に押し付けるなど、協議がまとまらないケースが多く見られます。このような場合には、家庭裁判所の離婚調停を利用します。
調停では、調停委員が間に入って夫婦の意見を調整します。調停はあくまで話し合いですが、
- 相手が話し合いに応じやすくなる
- 相手と直接話し合わずに済むので、安全に手続きを進められる
- 必要に応じて別居等に関する助言が得られる
といったメリットがあります。
ただし、調停も最終的には当事者の合意が必要です。相手の同意が得られなければ、離婚は成立しません。
その場合、最終手段として「裁判離婚」を検討することになります。
3-2.裁判離婚|モラハラが法定離婚事由に該当するかどうか
相手が離婚に同意しない場合に進む「裁判離婚」では、法律が定める離婚原因(民法770条1項)に該当しなければ離婚は認められません。
モラハラによる離婚では、モラハラの内容が、法定離婚事由うち「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(5号)に該当するかどうかが争点になります。
裁判所は、以下の事情を総合的に判断し、離婚の可否を決めます。
- 暴言や無視などの精神的攻撃が継続的・反復的であるか
- モラハラにより夫婦関係が著しく悪化しているか
- 被害者が心身の不調をきたしているか
- 子どもの生活や精神状態に悪影響が出ているか
- 別居の期間や、回復の見込みの有無
単に「口が悪い」「気が合わない」という程度では離婚原因にはなりにくく、客観的に婚姻関係が破綻していると認められる程度であることが必要です。
そのため、裁判離婚を目指す場合は、後述する「証拠の収集」が非常に重要になります。
4.モラハラを証明するための証拠と証拠収集の際の注意点
モラハラを理由に離婚を進める場合、もっとも重要となるのが「証拠」です。特に裁判離婚では、モラハラが婚姻関係を破綻させたと客観的に示す証拠が必要になります。
4-1.モラハラの立証に役立つ主な証拠
モラハラは身体的DVと違い、外傷が残らないため証拠が残りにくいと言われています。
しかし、日常の中で残せるものも多く、工夫次第で立証につながる材料を十分に集めることができます。
●暴言や罵倒の録音データ
明確にモラハラを示す有力な証拠です。「死ね」「役立たず」といった暴言、威圧的な口調の録音は、裁判所が状況を判断する際に大きな材料となります。スマホの録音機能でも問題ありません。●LINEやメールなどのメッセージ履歴
暴言・無視・指示・束縛などのメッセージは非常に重要です。日時が残るため、継続性を証明しやすく、裁判で重視される証拠になります。●モラハラ日記(記録)
いつ・どこで・どんな言動があったかを具体的に書き残しておく方法です。録音が取れなかった場面でも、詳細な記録が積み重なることで証拠として評価されます。●診断書(精神的被害がある場合)
モラハラが原因で不眠やうつ症状などが生じている場合は、診断書が有力な裏付けになります。精神的な不調があるときは、迷わず心療内科・精神科を受診してください。●第三者の証言や相談記録
友人、親、相談窓口、警察などに相談していた場合、その記録が状況の深刻さを示す証拠となることがあります。
4-2.モラハラの証拠収集をする際の注意点
モラハラを証明するには証拠が重要ですが、集め方を誤ると逆に自分が不利になってしまう可能性があります。モラハラの証拠収集をする際には、以下の点に注意が必要です。
①相手のスマホ・PCを無断で見るのはNG
メールやLINEを見るためにロックを解除する、SNSに無断ログインするなどの行為は、不正アクセスやプライバシー侵害として違法になる可能性があります。
②危険を伴う録音・撮影は避ける
録音や記録のためにわざと相手を怒らせる行為は、身の危険につながるため避けてください。安全が最優先です。
③改ざん・編集は絶対にしない
音声を切り貼りする、文章を部分的に削るといった加工は、証拠価値を失わせるだけでなく、不利な評価につながります。必ず原本をそのままの状態で保存しましょう。
④別居前に持ち出すものは慎重に
通帳、保険証券、契約書などは、婚姻関係の財産を把握するために重要ですが、持ち出す場合には紛失に注意し、コピーにとどめるなど慎重な取り扱いが必要です。
5.モラハラで別居をする際の注意点
モラハラが続き、心身の安全を確保するために「別居」を選ぶ方は多くいます。しかし、準備不足のまま急いで別居すると、生活費の問題や子どもの監護、荷物の持ち出しなどで不利になるケースがあります。
以下では、モラハラから安全に離れるための別居のポイントを説明します。
5-1.別居前に準備しておくべきこと
モラハラ加害者は、支配欲が強い傾向があり、別居を知った途端に妨害したり、怒りを爆発させたりする可能性があります。そのため、別居は慎重に、事前準備を整えてから行うことが重要です。
①住まいの確保
まずは、避難先・新居を確保することが最優先です。実家、友人宅、一時保護施設、賃貸物件など、安全に滞在できる場所を確保しましょう。
②必要な荷物・書類の準備
通帳、印鑑、保険証、身分証明書、婚姻費用や財産分与に関する資料(給与明細・保険証券・預金情報など)はできる限り持ち出します。コピーだけでも十分な場合があります。
③証拠の持ち出し
モラハラの録音、メッセージ、日記などを安全な場所に保管しておくことが重要です。別居後は相手に削除される可能性があるため、事前にバックアップしておきましょう。
④専門家への相談
別居前に弁護士へ相談しておくと、離婚の進め方、子どもの監護、婚姻費用の請求など、法的に適切な手順が把握できます。感情に流されないためにも重要なステップです。
5-2.別居後は婚姻費用(生活費)の請求をする
夫婦には同程度の生活を維持する義務があるため、別居後であっても婚姻費用(生活費)を請求することが可能です。
婚姻費用は、相手の年収や子どもの人数によって算定され、話し合いで決まらなければ家庭裁判所の調停で取り決めることができます。
モラハラ加害者は、生活費を渡さない、支配のために金銭を制限するなどの行為を行うケースが多いため、別居後の生活を安定させるためにも婚姻費用請求は非常に重要です。
6.まとめ
モラハラは外から見えにくい問題ですが、精神的負担が蓄積すると、夫婦関係だけでなく健康にも深刻な影響を与えます。相手の同意があれば協議や調停で離婚できますが、同意が得られない場合は、モラハラが「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかがポイントとなります。
困ったときは、ひとりで抱え込まず、まずは離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
















