公開日: 2022年04月28日

家賃を上げたい!賃料増額請求をするには?

アパートやマンションの賃貸経営をしている方の中には、地価の上昇に伴い家賃を上げたいと考えている方もいるかもしれません。

家賃を上げた場合には、賃借人にとって負担となりますので、賃借人から不満が出ることも予想されます。賃借人が賃料の増額に合意してくれない場合には、どのように対応すればよいのでしょうか。

今回は、不動産経営をしている方に向けて、賃料を増額する方法とその流れについて詳しく解説します。

1.家賃を増額することはできる?

不動産経営をするにあたって、家賃の金額は収益に直結する問題となりますので、オーナーとしてはより高額な家賃を設定したいと考えるでしょう。
そもそも、一度決めた家賃を後から増額するということは可能なのでしょうか。

1-1.当事者の合意によって変更可能

賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の合意によって締結されたものですので、その内容を変更する場合にも賃貸人と賃借人の合意によって行うことが可能です。

賃料も賃貸借契約の内容の一つですので、当事者の合意がある場合には、賃料を増額することも可能です。

1-2.合意がなくても賃料増額請求ができる場合

賃料を増額することについて、賃借人の合意がない場合であっても、借地借家法に基づく賃料増額請求をすることができる場合があります(借地借家法11条、32条)。

土地や建物の賃貸借契約は、一般的に長期間に及ぶものとなりますので、その間に物価・地価の上昇、経済状況や周辺環境の変化によって、現状の家賃が不相当になることもあります。

そのような場合に、不動産のオーナーは、賃料増額請求権を行使することによって、正当な家賃をもらうことが可能になります。

2.賃料増額請求の要件

借地借家法に基づく賃料増額請求権を行使するためには、以下の要件を満たす必要があります。
賃料増額請求の要件は、土地と建物の場合でほぼ同様の規定になっていますので、以下では建物賃料増額請求の要件を説明します。

2-1.賃料が不相当に低くなったこと

借地借家法32条1項では、以下の事情がある場合に賃料の増額請求ができるとしています。

① 土地、建物に対する租税その他の負担の増減
② 土地または建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
③ 近傍類似の建物の借賃に比較して不相当になったとき

これらの3つの事情は、あくまでも例示です。賃料増額請求の可否を検討するにあたっては、これらの3つの事情を主として、諸般の事情を総合考慮して判断していくことになります。

なお、賃料が不相当であるかを判断するためには、当該賃貸物件に相当な賃料を算定する必要があります。

相当な賃料を算定するためには、不動産鑑定士による不動産鑑定を行うことも検討する必要があります。不動産鑑定をする場合には、おおむね30万円から50万円の費用がかかりますので、不動産鑑定をするかどうかや不動産鑑定を行う時期などについては、賃借人との交渉成立の見込みなどを踏まえて慎重に判断する必要があります。

2-2.賃料増額請求の意思表示

賃料増額請求は、形成権と呼ばれる権利ですので、当事者の一方的な意思表示により行使することができ、その意思表示が賃借人に到達したときから賃料増額の効果が生じます。

したがって、賃料増額請求をするためには、賃貸人から賃借人に対する賃料増額の意思表示をする必要があります。

3.賃料増額の方法と流れ

上記の要件を満たした上で賃料を増額しようとする場合には、以下のような流れで行います。

3-1.当事者同士の話し合い

賃料を増額しようとする場合には、賃貸人と賃借人との間で賃料の増額についての話し合いを行うことになります。賃借人としてもいきなり賃料を増額するといわれても、すぐには納得してもらえませんので、賃借人の納得が得られる時期および方法で行うことが大切です。

たとえば、賃貸借契約を更新するタイミングです。賃料の増額に不満がある場合には、賃借人としても別の物件を探すなどの対応が可能ですので、期間途中に増額を伝えられるよりも納得が得られやすいといえます。

また、何の根拠もなく賃料の増額を伝えられても賃借人の納得を得られませんので、近隣の賃料相場が上昇していること、固定資産税の負担が増加していることなど客観的な資料を添えて話し合いを進めることも必要になります。

3-2.賃料等調停の申立て

当事者同士では話し合いがまとまらないという場合には、簡易裁判所に賃料等調停の申立てをすることになります。

賃料増額請求については、調停前置主義がとられていますので、話し合いができないからといっていきなり裁判を起こすことはできず、まずは調停を申し立てる必要があります(民事調停法24条の2第1項)。

賃料等調停では、調停委員を通じて話合いによる解決を試みられますが、話合いによる解決が難しい場合は、現在の賃料が不相当であるかどうかを判断するために、不動産鑑定士による鑑定が行われます。鑑定には費用がかかりますので、鑑定を行う前には、当事者双方から鑑定結果に従う旨の同意書をとる場合もあります。

鑑定結果が出てもなお、当事者間の合意が得られない場合には、調停が不成立となりますが、裁判所が職権で事件解決のために必要な決定を行う場合があります(17条決定、民事調停法17条)。

17条決定に対して、不服がある当事者は、2週間以内に異議の申し立てをすることによって17条決定の効力は失われます。

3-3.賃料増額訴訟の提起

賃料等調停が不成立となった場合または17条決定に対して異議申立があった場合には、賃貸人としては、裁判所に賃料増額訴訟を提起する必要があります。

賃料増額訴訟では、当事者からの主張・立証に基づいて、裁判官が原告の請求する賃料額が相当であるかどうかを判断することになります。
裁判でも不動産鑑定士による鑑定結果が賃料の判断の資料とされるのが一般的です。

判決によって賃料の増額が認められた場合には、賃借人は(既に支払った賃料に不足があるときは)その不足額に年1割の利息を付して支払わなければなりません。

4.賃料の増額を請求する場合の注意点

賃料の増額請求をする場合には、以下の点に注意が必要です。

4-1.賃料不増額特約がある場合

賃貸借契約書のなかに、「一定期間は賃料を増額しない」という賃料不増額特約が盛り込まれていることがあります。このような賃料不増額特約が盛り込まれている場合には、契約で定められた期間内は、賃料の増額を請求することができません。

賃料増額請求をする場合には、まずは、賃貸借契約書に賃料不増額特約があるかどうかを確認するようにしましょう

4-2.駐車場契約では賃料増額請求ができない

借地借家法に基づく賃料増額請求をするためには、当該賃貸借契約が借地借家法の適用があることが前提となります。

土地の賃貸借契約については、「建物の所有を目的」とすることが借地借家法の適用要件となりますので、建物所有を目的としない駐車場の契約の場合には、借地借家法に基づく賃料増額請求をすることができません。この場合には、賃借人との合意による賃料増額を目指すことになりますので、誠意をもって交渉をすることが大切です。

4-3.顧問弁護士の利用も検討を

不動産オーナーの方は、賃料の増額以外にも賃料の不払い、建物の明け渡し請求、近隣住民からの苦情など不動産をめぐるさまざまなトラブルに巻き込まれる可能性があります。

不動産管理会社と契約をしている場合には、住民トラブルについてはある程度は対応してくれますが、法的トラブルが生じた場合に対応することができるのは弁護士だけです。

不動産経営に関するリスクに適切に対応するためにも、顧問弁護士の利用をおすすめします。顧問弁護士を利用することによって、未払賃料の回収、賃料滞納を理由とした建物の明渡請求などの法的手段を迅速に講じることが可能です。

また、賃貸借契約書や重要事項説明書のチェックなどもできますので、将来発生する可能性のあるトラブルを最小限にすることも可能です。

5.家賃の増額についてのよくある質問(FAQ)

賃借人との家賃の値上げ交渉に合意してもらうコツってあるの?

家賃の値上げは、賃借人にとっても死活問題となります。賃借人の立場になって、次のことを試してみてはいかがでしょうか。

増額についての通知はできるだけ早めに

賃借人との交渉期間を考えて、家賃の増額通知は、できるだけ早めに出しましょう。

賃借人にも考える期間が必要です。早めに通知を出し、時間をかけて粘り強く交渉しましょう。

値上げの正当性を裏付ける根拠の提示

一方的に増額の通知を出しただけでは、賃借人も、戸惑ってしまいます。そこで、ネットや不動産会社から、近隣の条件の近い賃貸物件の家賃の情報を収集し、交渉の際に提示してみましょう。今までの家賃がいかに安かったのかが伝われば、交渉が上手くいく可能性も高くなります。

賃借人のメリットを考える

家賃の増額の代わりに、防犯カメラの設置や、外壁のリフォーム、宅配ボックスの設置など賃借人にとって住みやすくなる環境を整えると、交渉もしやすくなるでしょう。

家賃値上げの覚書って法的に効力あるの?

覚書は、当事者双方の合意を証明するための書類であり、契約書と同様に、法的な効力があることになります。

覚書を作成する際には、特に以下の点に注意が必要です。

  • 契約書名、覚書を交わした日付、変更点を記載する
  • 当事者双方が、変更内容について合意している旨を記載する
  • 当事者双方が署名をし、押印をする

ちなみに法律上、契約は当事者が合意した段階で成立するため(民法522条1項)、一定の場合を除き、書面に残す必要もありません(同法同条2項)。しかし、後に紛争にならないために、当事者が合意したことを証明するために契約書として書面にするのです。

したがって、覚書にも当事者の署名や押印が不要ということになりますが、当事者間の合意を証拠に残すためには、当事者が署名・押印したほうがいいでしょう。

6.まとめ

近隣の賃料相場に比べて、賃料の金額が不相当に低くなっている場合には、賃料増額請求という権利を行使することによって、賃料の増額をすることが可能です。

ただし、賃料増額請求は、借り主からの反発も予想されますので、慎重に進めていくことが大切です。
話し合いで解決することができない場合には、民事調停や民事裁判などの法的手段が必要になりますので、賃料の増額をお考えの方は、あたらし法律事務所にご相談ください。

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