賃貸物件を契約して入居をしてもらった後に、内覧時には判明しなかったさまざまなトラブルが生じることがあります。
賃借人から不具合を指摘された賃貸人は、どのような対応をする必要があるのでしょうか。
また、入居時の賃借人との間のトラブルを防止するためには、どのような対策が必要になるのでしょうか。
今回は、賃貸物件のオーナー様に向けて、賃借人との入居後トラブルの対応方法について解説します。
目次
1.入居後によくあるトラブル
賃貸物件を契約する前には、入居予定の物件の内覧を行うのが一般的です。
しかし、内覧をしていたとしても、入居後の賃借人から以下のような不具合を指摘されることがあります。
1-1.エアコンが正常に作動しない
賃貸物件の内覧では、間取りや収納などの確認が主であり、賃貸物件に備え付けられている設備の動作確認を行うことはほとんどありません。
エアコンや照明器具などの電化製品については、入居前には電気が通っていないこともあり、動作を確認しようとしてもできないということが多いでしょう。
そのため、入居後にエアコンを付けようとした際に、エアコンが正常に作動しないということに気付くことがあります。
1-2.天井から雨漏りがする
天井からの雨漏りは、雨の日でなければ気付くことができません。
そのため、晴れの日に賃貸物件の内覧をすると、当初から雨漏りがあったとしても、気づくことができず見過ごしてしまうことがあります。
1-3.蛇口から汚い水が出る
賃貸物件の内覧時には、水道の開栓手続きが行われていないため、蛇口をひねったとしても水が出ることはありません。
入居後に水を利用しようとして蛇口をひねったところ、茶色く濁ったような水が出るということもあります。
1-4.部屋の汚れ
タイミングによっては、前の入居者が退去してすぐに内覧をすることがあります。この場合には、多少汚れていてもハウスクリーニングなどできれいになるだろうと考え契約することがあります。
しかし、入居をしてみると汚れが残っていたなどの理由でトラブルが生じることがあります。
2.不具合についての入居前に説明をしていない場合
賃貸物件の不具合について、入居前に賃借人にしっかりと説明をしていなければ、賃借人から「契約不適合責任」を追及される可能性があります。
契約不適合責任とは、以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが、民法改正によって契約不適合責任と名称変更されたものです。
契約不適合責任は、主に売買契約において問題となりますが、賃貸借契約についても準用されます。
そのため、賃借人に引き渡した物件が契約内容に適合しない部分があれば、賃貸人が賃借人から契約不適合責任を追及される可能性があります。
契約内容に適合しているかどうかは、賃貸借契約書の記載内容だけでなく、契約の目的、契約の性質、契約締結に至る経緯など一切の事情を考慮して判断されます。
そのため、入居前の賃借人に不具合があることを明確に説明していなければ、契約不適合と判断される可能性があります。
賃貸人が賃借人から追及される可能性のある契約不適合責任の内容としては、以下のものが挙げられます。
2-1.追完請求
追完請求とは、契約内容に適合するよう履行を求めることをいいます。
賃貸借契約においては、主に不具合のある部分の修補請求という形で請求されることになります。
もっとも、賃借人の責めに帰すべき事由によって不具合が生じた場合には、賃貸人は追完請求を拒むことができます。
2-2.賃料減額請求
賃貸物件に不具合があり、修補請求を受けた賃貸人が相当期間内に修繕をしなかった場合には、不具合の程度に応じて賃料の減額請求を受ける可能性があります。
たとえば、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が規定するガイドラインでは、給湯器の故障により風呂が利用できない場合には賃料の10%が、トイレの配管のつまりが原因でトイレが利用できない場合には賃料の20%が、賃料減額割合になるとしています。
あくまでもガイドラインですので必ずしもそれに従う必要はありませんが、減額賃料を決める際の一つの参考になるでしょう。
2-3.損害賠償請求
契約の不適合が賃貸人側に原因がある場合には、それによって賃借人に生じた損害を賠償しなければなりません。
損害には、仮住まいを余儀なくされたホテルなどでの宿泊料や、雨漏りで家具や家電が損傷して必要になった修理費用・買替費用、やむを得ず行った引越の費用相当額が該当し、賠償を求められる可能性があります。
2-4.契約の解除
賃借人から賃貸人に対して不具合の修繕を求めたにもかかわらず、相当期間内に不具合が是正されないようであれば、契約を解除される可能性があります。
もっとも、不具合の程度が取引上の社会通念に照らして軽微であれば、契約の解除までは認められません。
【不動産の賃貸借契約はクーリングオフの対象外】
賃貸物件のオーナーの中には、賃借人からクーリングオフを理由に賃貸借契約の解除を求められた経験のある方もいらっしゃるかもしれません。
クーリングオフとは、契約を締結したとしても一定期間内(8日間または20日間)であれば無条件に契約を解除することができる制度です。これは、消費者が契約するかどうかについて十分に考える余地がないまま契約してしまうことで不利益を被ることのないように、消費者保護の観点から認められているものです。
消費者からすると無条件解除ができる非常に強力な対抗手段となりますが、クーリングオフを利用することができるのは、訪問販売や電話勧誘販売といった不意打ち性の高い取引に限定されています。賃貸借契約については、クーリングオフの対象外となりますので、賃借人からクーリングオフを理由に賃貸借契約の解除を求められたとしてもそれに応じる義務はありません。
3.不具合について入居前に説明をしていた場合
では、入居前に不具合について賃借人に説明をしていた場合には、賃貸人はどのような責任を負うことになるのでしょうか。
3-1.契約不適合責任を追及されることはない
契約時に賃借人が不具合を承知で契約をしたのであれば、当該不具合は契約不適合とはいえません。
契約不適合責任における契約不適合は、契約に至る一切の事情を考慮して判断するからです。
したがって、賃借人は賃貸人に対して契約不適合責任を追及することができなくなります。
3-2.賃貸人としての修繕義務を負うのか?
賃貸人には、賃貸借契約から生じる当然の義務として賃貸目的物を修繕する義務があります。
そのため、賃貸物件に不具合がある場合には、賃貸人はその不具合を修繕する必要があります。
ただし、その不具合が契約内容として当初から予定されていたものであった場合や、不具合を賃借人が承知していた場合には、修繕義務を負わないものと考えられています。
したがって、入居前に不具合について賃借人に説明をしていたのであれば、当該不具合については、契約内容として当初から予定されていたものといえますので、賃貸人が当該不具合の修繕義務を負うことはありません。
4.契約不適合責任や修繕義務についての対策
賃貸物件の不具合を理由として賃借人から責任追及をされるという事態を回避するために、賃貸物件のオーナーとしては、以下のような対策を講じるようにしましょう。
4-1.事前の説明と契約書への明記
賃貸物件に不具合がある場合には、それを賃借人にしっかりと説明をしておくことによって、契約不適合責任や賃貸人としての修繕義務を免れることができます。
そのため、賃貸人としては、賃貸物件に不具合があるかどうかについては、賃借人の入居前にしっかりとチェックし、不具合があれば賃借人に説明しておく必要があります。
また、口頭での説明だけでは、後日「言った・言わない」の水掛け論になってしまいますので、賃貸借契約書に不具合の箇所や程度を明記しておくことが大切です。
4-2.修繕義務に関する特約を定める
賃貸人の修繕義務は、賃貸借契約から当然に生じる義務ですが、修繕義務を負わないという特約を定めることも可能です。
もっとも、障子や襖の張替えといった軽微な修繕から床や壁といった大規模な修繕まで、修繕の規模にもさまざまなものがあります。すべての修繕を賃借の負担とする特約を定めると、過大な負担を課すものとして信義則や公序良俗違反を理由として無効と判断される可能性もあります。
特約が無効になってしまうリスクを回避するためにも、あらかじめ弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。
5.入居者が不具合を放置していた場合について
賃貸人には、修繕義務がある一方で、入居者には、「善管注意義務」があります。
入居後に賃貸物件に不具合を発見しても、入居者が放置したまま賃貸人や管理会社に報告を怠れば、この善管注意義務に違反することになります。
例えば、トイレの排水が流れにくいことを放置してトイレが詰まってしまい、床が水浸しになった場合などは、入居者が修繕費用の支払い責任を負う可能性が高くなります。
また、エアコンのフィルターを長期間交換しなかったために、エアコンが故障したケースなど入居者に故意・過失がある場合も同様です。
詳しくは、弁護士などの専門家にご相談ください。
6.残置物の不具合の修繕業務
残置物とは、前の賃借人が退去時に残していったエアコンや照明器具、ガスコンロなどを指します。
残置物は、前の賃借人が所有権を放棄し、所有権は賃貸人に移転していると考えられます。そのため、新たな賃借人に、残置物であることを明確に説明していなければ、賃貸物件の設備として賃貸人に修繕業務が発生する可能性があります。
一方で、残置物について修繕義務を負わないとの取り決めを賃貸借契約書や重要事項説明書に明記して、新たな賃借人に合意してもらっておけば、賃貸人に修繕業務が発生することはありません。
残置物を生み出さないためには、賃借人が退去する際に、残置物となりそうな物を廃棄してもらうことです。
もっとも、前の賃借人が置いていったものが新品同様であれば、捨ててしまうのも惜しいことがあるでしょう。残置物の所有権は賃貸人に移転していることから、他の設備と一緒に賃貸してしまう方法もあります。ただし、その場合には、賃貸人に修繕業務が発生します。
7.まとめ
入居後に賃借人から不具合を指摘されたというトラブルが生じたとしても、賃貸人の負担で応じるかどうかについては契約内容や特約の有無を踏まえて対応する必要があります。
どのように対応したらよいかわからないという場合には、あたらし法律事務所にご相談ください。