公開日: 2020年07月15日
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下請法について

下請法

中小企業の契約書をみると、発注先からかなり不利な条件で受注していることがあります。 たとえば、次のような場合です。

  • 製品の製造委託を受けたが、その際に指定の原材料を使用するよう求められた。ところが、原材料の価格が高騰しても従来の取引価格のままで、協議にも応じない。
  • 発注時に定めた金額が減額された。
  • 下請代金について、振込手数料を引いて支払ってきた。

下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、このような親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。 今回は、2025年現在改正論議が進んでいる、この「下請法」についてわかりやすく解説していきます。 ちなみに、下請法でいう親事業者は、親子会社のような関係を指すのではなく、委託業者、あるいは発注業者の意味合いでとらえていただければと思います。

1.下請法が適用される取引

下請法の適用対象となる取引は、以下のとおりです。 なお、建設業には、「建設業法」という別の法律で請負人との取引規制があります。 適用対象かどうかを詳しく知りたい場合は、弁護士にご相談ください。

1-1.物品の製造委託や修理委託

例:商品の販売をしている業者が、商品の製造を委託している事例。 物品の修理を業として請けている業者が、物品の修理を委託している事例。

  • 発注先(親事業者)の資本金が3億円超の場合 →下請事業者の資本金が3億円以下の場合に下請法が適用されます。
  • 発注先(親事業者)の資本金が1千万超の場合 →下請事業者の資本金が1千万以下の場合に下請法が適用されます。

1-2.情報成果物作成委託・役務提供委託

例:ソフトウエア―メーカーが、ソフトの開発を委託する事例。 広告会社がCM制作会社にCMの制作を委託した事例。自動車メーカーがメンテナンス作業を自動者整備会社に委託した事例。

  • 発注先(親事業者)の資本金が5千万円超の場合 →下請事業者の資本金が5千万円以下の場合に下請法が適用されます。
  • 発注先(親事業者)の資本金が1千万超の場合 →下請事業者の資本金が1千万以下の場合に下請法が適用されます。

2.下請法による義務・禁止事項

2-1.下請業者に発注後、発注書面を直ちに交付する義務

発注書面には、下請代金の支払期日、下請代金の額、給付内容等、必要な事項を記載する必要があります。

支払期日を定める義務

物品等を受領した日から60日以内で、かつ、できる限り短い期間で定める義務を負っています。

書類の作成・保存義務

親事業者は、給付内容・下請代金、その他必要事項を記載した書類を作成・保存する義務があり、保存期間は2年間です。

遅延利息の支払い義務

親事業者は、物品受領後(検査の有無を問いません)、60日を経過した日から実際に支払をするまでの間、年14.6%の遅延利息を支払う義務を負います。

2-2.下請法が親事業者に禁止する行為

前述の例を挙げた行為(著しく低い下請代金を押し付ける行為・下請代金を減額する行為)のほかに、以下の行為が禁止されています。

受領拒否・不当返品

  • 下請業者の納品商品自体に問題がないのに、期日になっても商品を受領しない行為
  • 親事業者が商品を受領した後、不良品でもないのに返品してきた行為
  • 親事業者の自社の勝手な都合により、納期を延期したり、発注を取り消したりする行為

下請代金の支払遅延下請事業者が納入してから(社内検査の有無を問わない)、60日を超えて、下請代金を支払う行為

物の購入・利用強制等

親事業者が指定する物品やサービスを強制して購入あるいは利用させる行為

有償支給する材料の対価を早期に決済する行為

有償支給の原材料を使用して下請業者が製造している間に、下請業者の責任がないのに、原材料の代金は現金決済し、下請代金は、サイトの長い手形で決済する行為

割引困難な手形の交付を禁止

下請代金の支払手段として、繊維業者の場合は90日、その他の業種は120日を超える長期の手形を交付する行為

不当な経済上の利益の提供要請の禁止

親事業者が、下請事業者から、協力金・協賛金名目で、別途支払わせる行為

不当な給付内容の変更等の禁止

親事業者が自社の都合で発注内容を変更したが、親事業者が追加の費用を負担しない行為

報復措置の禁止

親事業者が、上記の禁止行為を行った場合、下請業者がその事実を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由に、取引数量を削減したり、取引を中止等の不利益な行為をしたりする行為

3.下請法違反に対する罰則などについて

下請違反の行為については、公正取引委員会等が違反事実を積極的に発見できるよう、公正取引委員会に親事業者・下請事業者に対する報告をさせたり、親事業者に立入検査をする権限が与えられたりしています。

また、親事業者が下請法に違反した場合、それを取りやめて原状回復させる(減額分や遅延利息等の支払いをさせる)よう求めるとともに、再発防止の措置を講じるよう、勧告・公表を行っています。

さらに、発注書面の交付義務や取引記録に関する書類の作成・保存義務を守らなかった場合には、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

その他、親事業者に対する定期的な書面調査に対する報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりすること、また、立ち入り検査の拒絶・妨害に対しても罰金が処せられる場合があります。

もちろん、民事上の救済手段として、減額分の下請代金の回収のほか、契約の解除・損害賠償請求等を行うことも考えられます。

4.下請法の改正案について

2025年5月現在、下請法の改正論議が進んでおり、閣議決定もされています。
この背景としては、物価上昇を上回る賃上げの実現に向けては、適正な価格転嫁を促していくことが重要だと考えられているからです。

法律の題名は、「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(通称:中小受託取引適正化法)」に改正されることになっています。
また、改正案では、以下のような内容が盛り込まれています。

  • 発注者と受注者の上下関係をイメージさせる「下請」等の用語を改め、対等な関係をイメージさせること
  • 法律が適用されるか否かの判断基準として、資本金の額だけでなく従業員数による基準を追加すること
  • 発注者が受注者にとって不利な取引価格を一方的に決める行為(買いたたきなど)を禁止すること
  • 下請代金等の支払条件・手段について、手形払いは認めない等の見直しをすること
  • 法律の適用範囲に、物流業界における荷主企業と運送業者の間の委託業務(特定運送委託)も含めること

【フリーランス新法との違い】
フリーランスの取引に関する新しい法律(フリーランス保護新法)が2023年に成立しました。近年フリーランスの人口が大きく増加していることを受け、フリーランスが取引上で不当な不利益を受けず柔軟な労働ができる環境を整えるために定められたものです。
下請法は、発注者(発注元企業)と受注者(下請事業者)間の取引について、下請事業者に不利益が及ぶ行為を禁止する法律です。そして、下請法が適用されるには、発注者の資本金が一定以上になる場合という条件があります。しかし、フリーランスの多くはそれほど多額の資本金を有しておらず、下請法の適用を受けられないケースが多いです。 一方、フリーランス新法は資本金要件の制限がありません。フリーランス新法により、フリーランスは発注者(委託事業者)から広く保護されると言えるでしょう。

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