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法人破産をするなら代表者(社長)が知っておくべきこと

法人破産をするなら代表者(社長)が知っておくべきこと

会社の経営が悪化し立て直しが困難な状況では、法人破産を検討する経営者の方も少なくないでしょう。しかし、多くの経営者が法人破産を経験するのは初めてですので、さまざまな不安や疑問などもあると思います。
そのような不安や疑問を抱えた状態では、経営者として適切な選択を行うことも困難といえます。

今回は、法人破産における不安や疑問を解消できるように、代表者(社長)として知っておくべき5つのことをわかりやすく解説します。

1.法人破産とはどのような手続きなのか

法人破産とは、支払不能または債務超過になった会社の財産や負債を清算する手続きです。
裁判所に法人破産の申立てを行うと、裁判所により選任された破産管財人が会社の財産を処分し、債権者への配当(返済)を行い、最終的には会社の法人格は消滅します。これにより、会社の債務もすべて消滅することになります。

個人の自己破産は破産者の経済的再建を目的とする手続きになりますが、法人破産では、破産手続きにより会社は消滅してしまいます。会社のためというよりも、債権者や利害関係人のための手続きであるという違いがあるでしょう。

2.法人破産をすると代表者やその家族にどのような影響があるか

法人破産をすることで会社の代表者やその家族にはどのような影響が生じるのでしょうか。

2-1.代表者への影響

法律上、法人と会社の代表者は別人格として扱われます。よって、法人破産をしたとしても、原則として代表者の財産も一緒に処分されるようなことはありません。

しかし、会社の代表者が法人の債務の連帯保証人になっている場合には、法人破産による影響が代表者にも及ぶことになります。すなわち、主債務者である会社が法人破産により消滅した場合、連帯保証人である代表者のもとに債権者から請求が来ますので、代表者が債務の支払いに応じられないときは、代表者も自己破産などを検討しなければなりません。

また、中小企業の法人の場合は、会社と代表者との間で金銭の貸借関係があることも多く、その場合には、代表者も自己破産の検討が必要な場合があります。

2-2.代表者の家族への影響

法人破産をしたとしても、原則として代表者の家族に影響が及ぶことはありません。また、代表者が連帯保証人になっていたとしても、その家族には責任はありませんので、借金の返済を迫られたり、家族名義の財産が取り上げられてしまったりするおそれもありません。

ただし、代表者が連帯保証人になっている場合には、代表者名義の車、自宅、預貯金などを処分しなければなりませんので、生活環境が大きく変わるなどの事実上の影響が生じる可能性があります。

3.従業員にはどのような影響があるのか

法人破産をすることで会社の従業員にはどのような影響が生じるのでしょうか。

3-1.従業員との雇用契約

法人破産により会社の法人格は消滅してしまいますので、それにより従業員との雇用契約も解消されてしまいます。そのため、実務上は、法人破産の申立てをする前に従業員全員を解雇するという扱いが一般的です。

従業員を解雇する場合には、解雇日の30日以上前に解雇予告をする必要がありますが、30日以上前に解雇予告ができないときは解雇予告として不足する日数分の解雇予告手当の支払いが必要になります。

とはいえ、あまりに早い時期に解雇してしまうと、法人破産の申立て前に債権者に情報が知れ渡り混乱を招くおそれがありますので、解雇の時期は慎重に判断する必要があります。

3-2.従業員への給料や退職金

従業員に対する給与、解雇予告手当、退職金が未払いであった場合には、それらの賃金請求権も会社に対する債権に含まれます(=従業員は、債権者として破産手続きに参加することができます)。

破産手続きにおいては、従業員の給料や退職金などは財団債権または優先的破産債権として扱われますので、他の債権に比べて優先的な弁済を受けることができます。しかし、会社に十分な財産がないときは、給料や退職金が支払われないまま手続きが終わってしまうこともあります。

そのような場合には、未払賃金立替制度を利用することができます。未払賃金立替払制度とは、会社の倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者がいる場合に、国が未払い賃金の一部を立替払いする制度です。

国から立替払いされる賃金は、未払い賃金総額の80%ですので、全額が補償されるわけではありません。しかし、法人破産の手続きでは十分な配当を受けられる見込みのない従業員にとっては重要な制度となります。
そのため、解雇した従業員に対しては、これをしっかりと周知することが大切です。

4.法人破産後は事業を行うことができないのか

法人破産の手続きが終了すると、会社の法人格は消滅してしまいますので、その会社で事業を継続することはできません。
しかし、法人破産の手続きが終わった後であれば、再び会社を設立して、役員になることができます

旧商法では、破産者であることが取締役の欠格事由とされていましたので、破産者は取締役になることができませんでした。しかし、現行法では旧商法の規定は削除されましたので、破産者であっても問題なく取締役になることができます。

ただし、法人破産後に再び事業を行う際には、以下の点に注意が必要です。

  • 新規事業のために金融機関から融資を受けることが難しい
  • 旧会社の取引先と取引を継続できるとは限らない
  • 従業員を確保するのが難しい

5.法人破産をする際に何か気を付けることはあるのか

法人破産をする際には、以下の点に注意が必要です。

5-1.特定の債権者だけ有利に扱うと偏頗弁済にあたる

法人破産をする際には、懇意にしている取引先に迷惑をかけたくないなどの理由から、特定の債権者のみに返済を行ってしまうことがあります。

しかし、このような特定の債権者だけに支払いをする行為は、破産法上の偏頗弁済にあたり、破産管財人による否認権行使の対象となります。
否認権を行使されると、先に返済した財産・金銭の返還が行われるため、その債権者への返済がなかったことになり、改めて公平な分配が行われます。

また、破産犯罪として処罰の対象になる可能性もありますので、絶対にしてはいけません。

5-2.直前に会社財産を処分すると財産隠しを疑われる

法人破産の申し立てをすると、会社の財産はすべて債権者への配当に充てられるのが原則です。少しでも手元に財産を残したいという理由から、破産直前に会社名義から個人名義に財産の名義変更をしたり、会社が所有する財産を隠してしまったりする方がいます。

しかし、このような行為は財産隠しにあたりますので、これも破産管財人による否認権行使の対象となります。また、偏頗弁済と同様に破産犯罪として処罰の対象になる可能性もありますので注意が必要です。

財産処分のすべてが禁止されるわけではありませんが、直前の財産処分には上記のようなリスクを伴いますので、申立代理人の弁護士と相談しながら慎重に進めていくようにしましょう。

5-3.破産手続き中は転居が制限される

破産法では、破産会社の代表者は、裁判所の許可を得なければその居住地を離れることができないとされています。

法人破産では、手続きが終了するまで半年〜1年程度の期間が必要になります。その間、転居や海外旅行などで居住地を離れる場合には、必ず裁判所の許可を得なければなりません。

裁判所の許可を得ることなく居住地を離れてしまうと、代表者個人の自己破産手続において免責が認められなくなるおそれもありますので注意が必要です。

6.まとめ

上記以外にも、法人破産をする際のさまざまな疑問は弁護士に相談することによって解決が可能です。
早めに弁護士に相談することにより、法人破産以外の債務整理の方法(民事再生など)を提案してもらうこともできるかもしれません。

法人破産の手続きは、会社の代表者だけで進めていくのは難しいといえます。

あたらし法律事務所では、中小企業を中心とした破産事件を多数経験しております。経験豊富な弁護士が適切にアドバイスをさせていただきますので、どうぞお早めにご相談ください。

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