公開日: 2022年08月31日  更新日: 2026年09月28日

複雑な相続手続きを任せられる「遺言執行者」を選任しよう

【監修】
新 有道

弁護士 新 有道

東京弁護士会所属

相続、離婚、不動産、企業法務を中心に、個人・法人を問わず幅広い法律問題に取り組んできました。
これまでの実務経験を踏まえ、法的な問題点だけでなく、事案全体の状況を整理しながら、個々の事情に応じた現実的な解決方法を検討しています。

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生前に遺言書を作成しておくことによって、自分の意思を反映した遺産相続を実現することができます。
しかし、相続人同士のトラブルが予想されるケースや相続財産が多いケースでは、遺言書の内容を実現するにあたって困難が生じることもあります。

そのような場合には、「遺言執行者」を指定することによって、複雑な相続手続きであってもスムーズに進めることが可能になります。遺言内容を円滑に実現するためにも、遺言執行者を指定しておくことは有用です

今回は、遺言執行者の役割や、遺言執行者を指定する方法などについて解説します。

1.遺言執行者とは?役割と「やること」

1-1.遺言執行者の役割・やること

遺言執行者とは、わかりやすく言うと「遺言書の内容に従った相続を実現するために、必要な相続手続きを行う人」のことです。
相続人の代理人という立場からは独立して、遺言の内容を実現するための強い権限が与えられています。

なお、遺言執行者がやること・できることとしては、以下のものが挙げられます。

  • 遺贈
  • 相続財産目録の作成と相続人への交付
  • 預貯金の解約・名義変更および払戻し
  • 不動産(土地・建物)の所有権移転登記
  • 子どもの認知手続き
  • 相続廃除の申し立て

【遺言執行者の義務と「義務違反」があった場合の対処法】
遺言執行者は強い権限を持つ一方で、法律上の重い義務を負っています。
主な義務としては、善管注意義務(誠実に業務を行う義務)、通知義務(相続人へ遺言内容や就任を知らせる義務)、報告義務などが挙げられます。
もし遺言執行者がこれらの義務を怠ったり、財産を不正に処分・横領したりといった遺言執行者の義務違反があった場合、相続人は家庭裁判所に対して「遺言執行者の解任」を請求することができます。また、義務違反によって損害が生じた場合は、損害賠償請求の対象にもなり得ます。

1-2.遺言執行者を選任すべきケース

「遺言書を作ったら、遺言執行者は必ず必要か?」と疑問に思う方も多いでしょう。

結論から言うと、すべての遺言で遺言執行者が必ず必要というわけではありませんし、遺言執行者を指定していなかったとしても遺言が無効になるわけではなりません。
ただし、「遺言による子の認知」や「推定相続人の廃除」を行う場合は、民法上、遺言執行者の選任が必須となります。

また、第三者への遺贈や、特定の相続人に財産を集中させる場合などは、トラブルを防ぐために遺言執行者を指定しておくことが強く推奨されます。

①子どもの認知

婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもとの間に法律上の親子関係を生じさせるためには、認知という手続きをする必要があります。
生前はさまざまな事情があり認知することができなかった人も、死後に子どもの認知をするということがあります。

遺言による認知をする場合には、遺言執行者が認知届を提出することになりますので、遺言執行者の選任が必須となります。

②相続廃除

推定相続人のなかに、遺言者に対して、虐待・侮辱・著しい非行などをした人がいる場合には、相続廃除の手続きによって、当該相続人の相続権を奪うことができます。

相続廃除は、家庭裁判所に申立てをする必要がありますので、その手続きを行う遺言執行者の選任が必須となります。

③遺贈

遺言書で遺贈がなされた場合には、相続人が遺贈義務者となって手続きを行うことになります。しかし、相続人の中に遺贈に反対している人がいる場合には、スムーズに遺贈の手続きを実現することができません。

遺言執行者を選任していれば、遺言執行者が遺贈義務者となって受遺者に対して遺贈の手続きを行うことができます。

④相続人が多忙・手続きに不安がある

遺言執行者は、相続人に代わって相続手続きを行うことができます。そのため、相続人が多忙で相続手続きを行う余裕がない場合や、相続手続きに不安があるという場合にも、遺言執行者を選任するとよいでしょう。

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2.遺言執行者を選任するメリット

法律上遺言執行者の選任が必要とされている場合(認知、相続廃除など)以外であっても、遺言執行者を選任することによって、以下のようなメリットが得られます。

2-1.不動産の遺贈をスムーズに行える

相続人だけでも遺贈の手続きを行うことはできます。しかし、相続人のなかに遺贈に反対をしている人がいた場合には、不動産の名義変更のための所有権移転登記ができずに裁判をしなければならないという事態にもなりかねません。

遺言執行者がいる場合には、遺贈の履行は遺言執行者が行います。ただし、不動産を相続人以外の者に遺贈する場合には、原則として受遺者と遺言執行者が共同で所有権移転登記を申請します。

2-2.預貯金の払戻し手続きが簡略化できる

民法改正によって、特定財産承継遺言がある場合には、遺言執行者に預貯金の払戻しや解約の権限が与えられるようになりました(民法1014条3項)。

特定財産承継遺言とは、遺産に含まれる特定の財産を相続人の1人または数人に承継させる内容の遺言です。たとえば、「A土地を長男に相続させる」「B銀行の預貯金を長女に相続させる」という内容の遺言のことをいいます。

このような遺言であった場合には、遺言執行者が相続人に代わって単独で預貯金の払戻しをすることができますので、相続人全員の印鑑登録証明書が不要となるなど、預貯金の払戻し手続きを簡略化することができるというメリットが得られます。

3.遺言執行者がいる場合の相続人の行為制限

遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言の対象になっている相続財産について処分をしたり、遺言の執行を妨げるべき行為をすることができなくなったりします(民法1013条)。

具体的には、遺言によって第三者に不動産が遺贈された場合、相続人が当該不動産を売却する、当該不動産を担保に入れるといった行為です。相続人がこのような行為をしたとしても、原則として、当該法律行為は無効となります。

4.遺言執行者の指定・選任の手続き

4-1.遺言執行者には誰がなれるか?

遺言執行者の資格について、特別な法律上の資格(弁護士資格など)は不要です。法律上「未成年者」および「破産者」でなければ、基本的には誰でもなることができます。

つまり、「遺言執行者は相続人でもなれるか?」「遺言執行者と相続人が同一人物でも問題ないか?」という点もよく質問されますが、相続人が遺言執行者になることは可能なのです。
例えば、「長男に遺言執行者を頼む」といった指定も法律上有効です。

ただし、特定の相続人が遺言執行者になると、他の相続人から「偏った手続きをされるのではないか」と疑念を抱かれ、トラブルに発展することもあります。

また、遺言者は、遺言執行者を複数人指定することも可能です。複数人指定した場合、業務の決定は過半数で行うのが原則ですが、特定の財産の処分(預貯金の解約など)について分担させることもできます。ただし、意思決定で揉めるリスクもあるため、慎重な検討が必要です。

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4-2.遺言書で遺言執行者を指定

次に、遺言執行者を指定・選任する手続きの流れを解説します。

遺言書を作成する時点で、遺言執行者にしたい人が決まっている場合には、遺言書で遺言執行者を指定します。

しかし、遺言執行者に指定されていたとしても、遺言執行者に就任するかどうかはその人の判断に委ねられていますので、確実に遺言執行者に就任して欲しいという場合には、あらかじめ遺言執行者になる人にお願いをしておくとよいでしょう。

4-3.相続開始時に遺言執行者を第三者に指定してもらう

遺言執行者にしたい人が決まっていない場合には、「遺言執行者を指定する第三者」を指定するという方法をとることもできます。

このような方法をとることによって、指定された第三者に相続開始時点でもっともふさわしい人を遺言執行者に指定してもらうことができます。

4-4.家庭裁判所の審判によって遺言執行者を選任

遺言書によって遺言執行者の指定が行われていない場合、または指定された遺言執行者が就任を拒否した場合には、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをすることができます。

ただし、遺言執行者選任の申立ては、遺言の執行が必要な場合に限られますので、「遺言執行者がいた方が、手続きがスムーズだから」という理由だけでは申立てが却下されることになりますので注意が必要です。

スムーズな遺言執行を実現したいという希望がある場合には、あらかじめ遺言書で遺言執行者を指定しておいた方がよいでしょう。

5.遺言執行者についてのよくある質問(FAQ)

遺言執行者にはいくらくらい報酬を支払えばいい?

遺言執行者の報酬額の決定方法

遺言執行者の報酬は、以下の方法で決めることができます。

  • 遺言書に報酬額を記載しておく
  • 遺言書への記載がなければ、相続人との協議により決める
  • 協議が整わなければ、家庭裁判所に報酬付与の申立てを行い決めてもらう

報酬を含め、遺言執行に関する費用は、相続財産から支払われることになります(民法1021条)。

遺言執行者の報酬相場

特に規定が設けられているわけではありませんが、一般に遺言執行者の報酬は、遺産総額の1%~3%が相場を言われています。

相続人が遺言執行者に指名された場合には、無償または少額の謝礼程度であることも多くなります。

遺言執行者が死亡してしまったら?

遺言執行者が相続開始前に死亡した場合

指定した遺言執行者が相続開始前に死亡してしまった場合には、遺言書を書き換えることで新たな遺言執行者を指定することができます。

もし、遺言者が新たに遺言執行者を指定することなくお亡くなりになった場合には、相続人は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申し立てが可能です(民法1010条)。

相続開始後、遺言執行者が就任前に死亡した場合にも、同じ扱いとなります。

遺言執行者が就任後に死亡した場合

遺言執行者が就任し、遺言の執行中に亡くなった場合にも、相続人は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申し立てができます。

ただし、死亡した遺言執行者が執行した部分の報酬請求権は、死亡した遺言執行者の相続人が相続することになる点には注意が必要です。

遺言執行者が死亡するトラブルの回避法

遺言者は、遺言執行者が死亡した場合などに備えて、予備的な遺言執行者を指定しておくことが可能です。

詳しくは、相続に強い弁護士にご相談ください。

6.遺言執行者として弁護士の指定がおすすめ

遺言執行者は、未成年者と破産者以外であれば誰でもなることができます。そのため、相続人や受遺者を遺言執行者と指定することも可能です。

もっとも、遺言執行にあたっては相続に関する知識や法律の理解が不可欠となりますので、弁護士などの専門家を遺言執行者に指定することをおすすめします。

弁護士を遺言執行者に指定しておけば、相続人同士でトラブルが生じたとしても適切に対応してくれますので、ご自身が亡くなった後のことも安心して任せることができるでしょう。

遺言書の作成や遺言執行者のご依頼については、あたらし法律事務所の弁護士に是非ご相談ください。

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