公開日: 2020年12月02日

不動産相続の基礎知識と遺産分割方法をわかりやすく解説

不動産 相続

遺産に不動産がある場合、相続手続きで何をすれば良いのか、不動産があるときの遺産分割はどうすればいいのか、親の家を相続することになったらどんな手続になるのかなど、不動産の相続に直面している方に向けて、実際の分割方法や注意点も併せてご説明します。

1.不動産の相続はなぜ複雑なのか?

1-1. 不動産の価値評価を行う必要がある

不動産は、客観的な価値が数字で見えるわけではなく評価時点や評価方法により価格が変わります。ですから、不動産は専門的な観点から評価を行う必要があります。

遺産分割は、相続財産全体を具体的な相続分に応じて相続人に公平に分割することを目的とする手続ですので、その前提として、相続財産の価値が把握できてはじめて、分割方法についての妥当な議論ができます

1-2. 不動産は簡単には「分割」できない

不動産は現金や預金などとは異なり、半分ずつ・3分の1ずつなどと単純に分けるわけにはいきません。例えば、狭い土地を半分、3分の1ずつに分割したところで、その土地を相続人それぞれが有効活用することが難しいことからもお分かりいただけるかと思います。

一方で、不動産を共有にすれば、権利関係が複雑になります。不動産を売却するにしても賃貸するにしても、他の共有者の同意を得なければならない場合が出てくるからです。共有者同士の息が合っていればまだしも、そうでない場合は共有物をそのままの形で利用することに支障が発生しますので、後日、共有物を分割する争いが発生する可能性があります。

また、不動産を売却して代金を分けるにしても、不動産によっては売却自体が困難で、売却に時間がかかる場合もあります。また、不動産の分割方法によっては、分割前の不動産総額と分割後の不動産総額が異なる場合もあるなど、分割方法が色々あるうえに一長一短であり、一筋縄ではいきません。

1-3. 当事者の利害の対立が深刻な場合が多い

不動産の遺産分割の場合、相続人間の利害が対立することが多いと思います。相続人の中で、同じ不動産の取得をめぐり争う場合もありますし、不動産を取得したいと主張する人、不動産を売却するべきであると主張する人とで意見が割れる場合もあります。

相続人の中には、相続財産である不動産を使用して商売していたり、現にその不動産に居住していたりする場合があり、不動産をそのままの形で残すのか売却するのかについて、利害対立が激しくなる傾向にあります。こうしたことから、不動産の遺産分割は複雑化する場合があります。

1-4. 相続登記の手続きが必要

相続登記が義務化される

遺産分割により不動産を取得した場合、不動産を取得した相続人は、その不動産の登記上の名義を被相続人(=相続される人・不動産の所有者)から移転する必要があります。

相続登記は、不動産登記法の改正により2024年4月1日から義務化され、改正以前に発生した相続についても、登記申請をする必要があります。

登記を備えなければ法定相続分以上を第三者に対抗できない

また、登記上の名義を相続人に移転しないと、不動産の所有権者が不明確になりますし、不動産を取得した相続人に更に相続が発生しそのまま長期間が経過すると、権利関係が不明確で複雑になってしまいます。

さらに、登記手続きを怠ってうちに、遺言や遺産分割の内容に反して他の相続人が不動産の所有権を第三者に譲渡した場合、法定相続分を超える部分を第三者に対抗するためには、所有権移転登記を経由しなければなりません(民法899条の2第1項参照)。

法律でこのように定められたのは、第三者は他の相続人が真の所有者であることを信用して取引したのにもかかわらず、後で、別の相続人から所有権を主張されることになり、第三者に不測の損害が発生してしまうおそれがあるからです。

これらのことから、権利関係を公示し明確化するために相続登記の手続きを行う必要があります。相続登記は書類が多数必要で専門的な手続きであるため、弁護士や司法書士のサポートがあったほうが望ましいでしょう。

2.不動産の遺産分割方法はどのように決める?

2-1. 遺産分割協議を行う

遺産分割は、原則としては相続人全員の話し合いにより行います(民法907条1項)。

協議は一堂に会してする方法もありますが、書面や持ち回りで協議しても構いません。協議では、各相続人の言い分を調整しながら、遺産分割の方法を決めていくことになります。遺産分割協議はあくまで全員の意思の合致が必要となり、多数決で決めるわけにはいきません。

遺産分割の協議で相続人全員の意見がまとまり、遺産分割協議の内容が固まったら、遺産分割協議書を作成して、相続人全員で署名・押印することになります。

2-2. 揉めてしまった場合は遺産分割調停を申し立てる

相続人の全員の同意で遺産分割協議がまとまれば問題ないのですが、遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをして解決を図ります。

調停は、裁判所で行われますが中身は話合いです。調停では調停ごとに調停委員会(通常は担当裁判官・調停委員2名)が個別に相続人の言い分を聞いて、意見調整をし、調停案を作成し、遺産分割協議の成立を目指します。

当事者の意見調整によっても、当事者間で遺産分割に関する合意が得られない場合は、調停委員会から調停案を提示する場合もあります。

このように調停は、当事者だけではなく、第三者が入っての話合いですので、遺産分割協議を行うよりも、第三者の仲介が入っている分、冷静な話し合いが期待できるというメリットがあります。

遺産分割協議が調停でまとまった場合は裁判所で調停条項が作成され、それが遺産分割協議書の代わりとなります。

2-3. 遺産分割調停がまとまらない場合は審判に移行する

遺産分割調停を通じても相続人間の利害対立が激しく調停で遺産分割協議がまとまらない場合もあり、そのときは家庭裁判所で審判の手続に移行します。

審判では、裁判官が遺産分割調停で争われていた点や、相続人から提出された主張や証拠を整理し、事実の調査、証拠調べの手続を経た上で、場合によっては裁判官から和解案が提示されます。

そして、それでも和解が成立しない場合は、家庭裁判所は、当事者の主張や証拠に基づき審判し、遺産分割について判断をすることになります。

3.不動産を遺産分割する4つの方法

不動産の遺産分割は大きく分けると以下の3通りの方法があります。

3-1. 現物分割

「現物分割」は、複数の土地をそれぞれ相続人に相続させたり、一筆の土地を分筆したり、複数の土地を合筆するなどして物理的に分ける方法です。現物分割は家庭裁判所の調停・審判での原則的な方法であるとされています。

しかし、土地を分筆せずに現物分割を行うと、次のようなケースが発生します。

例えば、ある土地を相続人Aさんに、ある土地を相続人Bさんにという方法で分割すると、相続人間の公平が図れないことから、遺産分割協議で相続人全員の合意が得られずに、うまくいかない場合があります。 また、土地を分筆・合筆する場合には費用や時間がかかりますし、一筆の土地を分割すると土地の面積が小さくなり、用途が限定されるなどのデメリットもあります。

このように、分筆せずに現物分割する場合は、他の遺産で調整しないと不公平になるなどの問題があるため、実際の実務では現物分割が原則的な遺産分割方法になっていないように思われます。

3-2. 代償分割

不動産の取得を希望する相続人に不動産を相続させる代わりに、他の相続人には別の財産を与える・代償金を支払うなどの埋め合わせをする方法が代償分割です。

先に述べたとおり、不動産の現物分割は実際には困難な場合が多いため、代償分割を行うことで調整を図ることとなります。

その場合、各相続人の具体的な相続分を算出する必要がありますので、不動産の価値が把握できてはじめて、分割方法についての妥当な議論ができます。

そこで不動産の価値を、固定資産評価額・路線価・時価評価等を用いて把握して、相続人間の協議で決めることとなります。

また、代償金を支払う相続人の代償金支払能力・支払方法が問題となるときがあり、調停・審判では、原則としては代償金の支払能力を証明する必要があります。

3-3. 換価分割

不動産を売却して、売却代金を相続人間で分ける方法です。調停や審判では、現物分割や代償分割が困難な場合に行われます。

換価分割の方法としては、大きく分けて任意売却による換価と競売による換価があります。

通常は競売よりも任意売却の方が高く売れるため任意売却による方法を取られることが多いと思われますが、調停や審判では、相続人間で任意売却に関して足並みが揃わず、任意売却先の選定などに時間がかかる場合あり、競売で換価する場合もあります。

3-4. 共有にする

以上の現物分割、代償分割、換価分割という3通りの方法以外にも、複数の相続人で不動産を共有するという方法もあります。

共有分割は、共有以外の分割方法が困難な状況であるときに選択される方法です。

共有分割は、先程述べたとおり、相続人間で足並みがそろっているうちはいいのですが、共有持分の処分行為には共有者全員の同意が必要となるなど(民法251条)、権利関係が複雑化するため、後で揉め事になりやすい傾向にあります。共有分割は、遺産分割の問題を単に先送りするだけという人もいます。

4.実際に不動産を相続することになった場合の手続きは?

4-1. 所有権移転登記手続きを行う

遺産分割は、相続の開始時にさかのぼって効力が発生しますので、相続人は相続時から遺産分割で定められた相続財産を取得することとなります。

したがって、不動産を相続した相続人は、被相続人から相続人への所有権移転登記、いわゆる相続登記をすることとなります。 不動産の相続登記の申請は、その不動産所在地を管轄する法務局に、登記申請書に必要書類を添付して行います。

手続きについては、以下のコラムを参考にしてください。

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4-2.相続した不動産に 賃借人がいる場合は賃貸人の変更を通知する

相続の対象となる不動産に賃借人がいるときは、不動産の所有権が移転するに伴い、賃貸人たる地位も移転します。

その場合に賃貸人は、被相続人から相続人への相続登記をしないと、自分が賃貸人になったと主張することができず、相続人からの賃料請求を拒絶される場合もあり得ますので(民法605条の3、605条の2第3項)、相続した不動産に相続登記をする必要があります。

なお、賃貸人たる地位の移転については、相続登記を備えれば賃借人の承諾は不要ですが、念のため、賃料の支払先が変更になることは賃借人に通知する必要があります。

5.不動産相続に関するトラブルを回避するための注意点

5-1. 相続税の納税資金を確保する

相続税は現金による一括納付が原則ですので、生前に、換価しにくい資産を売却したり、生命保険を活用したり、生前贈与を受けるなどして、相続税の納税資金を確保するための方策を考えておく必要があります。

どうしても資金を確保できない場合には、金融機関から借り入れをし、あるいは不動産の売却を検討することもやむを得ない方法であると考えます。特に不動産をお一人で相続した人には、高額の相続税が課される可能性がありますので注意が必要です。

5-2. バランスの取れた遺産分割案を検討する

不動産の価値が相続財産の大部分を占めるケースも多いです。その場合、不動産を相続する人としない人の間で不公平感が発生することとなります。

相続人間で不公平感があると、遺産分割協議がまとまらずトラブルの原因となりますので、代償分割・換価分割などの遺産分割方法を適切に活用して、バランスの取れた遺産分割案を検討すべきでしょう。

6.不動産の相続についてよくある質問(FAQ)

相続した不動産の遺産分割の方法は?

相続した不動産を分割するには次の方法があります。

  • 現物分割
    複数の土地をそれぞれ相続人に相続させたり、一筆の土地を分筆したり、複数の土地を合筆するなどして物理的に分ける方法
  • 代償分割
    不動産の取得を希望する相続人に不動産を相続させる代わりに、他の相続人には別の財産を与える・代償金を支払うなどの埋め合わせをする方法
  • 換価分割
    不動産を売却して、売却代金を相続人間で分ける方法
  • 共有分割
    複数の相続人で不動産を共有する方法

ただし、共有分割は、権利関係が複雑化するため、後で揉め事になりやすく、お勧めできません。

相続した不動産について弁護士に相談するメリットは?

相続した不動産について弁護士に相談すると、次のメリットがあります。

不動産の分割方法についてアドバイスしてもらえる

相続人の状況や相続財産の額など、相続事案は、1つとして同じものがありません。

ご紹介した通り、不動産の分割方法はどれも一長一短であり、それぞれの状況に応じて選択しなければなりません。

相続に詳しい弁護士に相談すれば、状況に応じた分割方法を提案してくれるでしょう。

客観的に不動産の評価額を把握できる

遺産分割協議では、不動産の評価額が問題となります。

固定資産評価額・路線価・時価評価を算出するにも専門知識となるため、不動産の評価額を把握するために、弁護士の力を借りる必要があります。

依頼者の代理人として遺産分割の交渉が可能

不動産といった価値の大きな遺産があると、遺産分割協議が争いになってしまうことも少なくありません。

そうした場合でも、弁護士に依頼すると代理人として、交渉を一任することができます。

相続不動産に関する法律問題をトータルで相談できる

相続した不動産を売却したい場合や、賃貸したい場合、被相続人が賃貸していた不動産を承継した場合など、弁護士なら、相続した不動産に関する法律問題をトータルで相談することができます。

隣接士業と連携していれば相続税や相続登記も依頼可能

遺産に不動産が含まれていると、相続登記や相続税も心配になります。

隣接士業と連携している弁護士に依頼すると、こうした手続きにも対応してくれます。

7.まとめ

以上のとおり、不動産の相続は、現金預金と異なり単純に分割することができず、手続も複雑です。また、当事者間の利害対立も深刻な場合が多いため、相続の経験が豊富な弁護士に相談することで、スムーズに進めていくことができるでしょう。当事務所でも不動産の相続に関する知識・経験は豊富ですので、是非、ご相談をいただければと思います。

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